■The meaning of the middle name...

「会いたい人……いやあわせる顔もない子なら居ます」

ぽつり、とシェリィが呟いた言葉に、レフィは少し表情を翳らせた。

「シェリィがこの世界に来て療養で滞在していたあの島の子ですわね。クレシュミエントもまた呼び出して注意しましょうね。あの子はまだまだ学ぶ事が必要ですわ。でも私（わたくし）も本体の方なら“視る”事が出来るでしょうけれど、今の状態では……」

「分かってます、レフィ様にご無理を言うつもりはありませんし、レシュの行動を今更咎めるつもりもないんです。まぁこの騒動が思ってた以上に長引いてるからこそ、そこまで性急に引き離す必要もなかった……とは思うのですが、今ここで言っても仕方ないですしね」

はぁ、とシェリィは小さくため息をついて。

「……シス。故郷に戻るなり無事にしててくれないと、私はきっと一生後悔する事になる……無事でいてくれ」

天を仰いで祈るようにしながら、自身は神族の端くれで、傍らに居る存在は端くれどころか最上位に属する神族だというのに、その願いを叶えてくれる何かを探している自分に、シェリィは小さく苦笑いをした。

そんなシェリィに向かって、レフィが何かを思い出した、とばかりぽん、と手を合わせて告げる。

「そうそう、あなたにそこまでの大きな変化を与えてくれたこの世界の名でもあり、別の意味も秘めた文字である“Ｍ”を、ミドルネームとして私（わたくし）レフィナードの名に於いてシェリィに授けますわね。形式的な授与はまた“城”へ一緒に戻った折に致しましょう。これからはシェルシェーリィ・Ｍ・ウェーハスハールと正式には名乗りなさいな」

その言葉にシェリィは左右色違いの異色の瞳を瞬かせて、驚きの表情を浮かべた。

「ミドルネーム……リーディが持っていた理由も以前本人からも聞きましたが、これはその人物の“本質”に関わる重大な変化のようなものがあった場合にだけ与えられるはずです。それが、私にＭという形で与えられると……？」

「えぇ、シェリィも分かってるでしょう？　貴方がこの世界に滞在した時間、そして戻ってきたがる理由のある世界。それだけでも授与するに十分足りますわ」

「……何だか不思議な気分ですが、確かに拝命しました。以後、正式な名乗りの必要がある折は、そう名乗るように致します」

小さくレフィの方に頭を下げると、シェリィは口の中でその名を呟くようにしてみる。
何だか……とても不思議な気分だった。
本来姓を名乗る事は禁忌のはずなのに、レフィはそんなシェリィを“城”へ戻った折も三古老と違い、一切咎めたりもしなかったし、今後も止める様子を見せない。
その件に触れれば禁忌を承知で自由にさせて貰っているのかもしれないレフィのお目こぼしを無駄にしかねないので、あえて話題を避ける。

「シェルシェーリィという私の名の意味は“探し求める者”であったはずです。それにこのミドルネームは関係しているのでしょうか。確かに……探し求めていたものの断片は、この世界に関与しているとは思っているのですが。“鍵”のようなものがここにあると漠然と感じてましたから、長期滞在と再来を申請し続けたのですし、アークには以前、探しものを見つけた所が始まりだと言われました」

何処か困惑した様子で言葉を紡ぐその様子を見て取りながら、レフィはふふっと笑う。

「さぁどうかしら？その答えはきっとシェリィ自身で見つけないと、本当の意味での“探求”にはならないと思いますわよ？　別の意味があると告げたのをヒントに、もう少し頑張ってみなさいな」

“そのミドルネームにはこの世界の名前以外にも、もう１つ大事な別の意味が籠められているその答えにこの子はたどり着けるか、楽しみですわね。
そして戦う事が存在意義だと思ってる部分も変化出来れば私（わたくし）も嬉しい……そう、その探し物が戦いとは少し違う場所で見つかりそうな事にも気付けるかしら、ね？見守る事しか出来ないのはもどかしいのですけれど”

シェリィが思っているのとは少し違う理由も以ってこの世界へ分身を送り込んだウェーハスハール一族の“長”は、まだ考える表情をしているシェリィに優しい視線を送るのだった。

（ジェイドが考えなくてよい事を考えているところに、猛スピードで誰かがやってくる）

（やがて、やってきた方の人が、ジェイドに向けて話し始め、礼を述べた）

（心の中の感情が整理できていないようで、いつも以上に言葉が出てこない）

（急に俯いたかと思うと、背中を向ける。仮に別人だとしたら、致命的な行いになるかもしれない行為だが、ジェイドにはその余裕はない。心なしか肩が震えているようにも見える。）

（まだ後ろを向いたままのジェイド。言葉は何とか紡いでいるものの、心はまだ落ち着いては居ないようだ）

（鞘から長剣を抜き放つと綺麗に構えを取って）

（緩やかに仕込み杖を長剣の形に変形させて構える）

（穏やかに微笑つつ仕込み杖を元の杖に戻す）