竜宮城での宴会の夢

シュガーが目を覚ますと、そこは冥界の海中に位置する平家の竜宮城の中、大広間の宴会場であり、平家の怨霊達が催す酒宴がたけなわといった様子であった。シュガーがぼんやりした意識のまま辺りを伺うと、主賓席にはかのトロイアの老王プリアモスとその妃ヘカベが座っており、その脇にホストの安徳帝の霊が座していた。

ぼんやりとしたままシュガーは思う。ああ、これは、安徳天皇とアニマがトロイアの王プリアモスとその妃のヘカベを竜宮城に招待したその歓迎の宴なのだな、と。トロイアの王子であるヘクトールの霊もその妻であるアンドロマケーと共に平家の竜宮へと招かれており、日本酒と瀬戸内近海の地魚料理で歓待を受けていた。

敦盛と清経による笛の合奏、経正の琵琶の演奏、資盛による朗々たる歌の披露、維盛の舞い…公卿である平家の貴公子達による風情のある楽は、古代ギリシア生まれのトロイアの王族にとっても耳に心地よいものであるようで、トロイアの王族達は時に頷き、時に耳をすませ、心ゆくまでその調べを楽しんでいるようであった。

宴の最中には緊張の面持ちでアニマが平家の女房達とともに姿を現し、琴を披露する。ゆったりとした曲調の琴の演奏はシュガーも目を閉じて聞き入ってしまうほど。

演奏が終わると、トロイアの王族も平家の怨霊もアニマと女房に拍手を送り、アニマははにかんだ様子で嬉しそうにしていた。アニマは一礼して退場し、しばらくして主賓の老王プリアモスとヘカベの元にやってきて彼らと会話をしているようだった。宗盛の霊と知盛の霊はヘクトールの霊と何事かを語りあっていた。かつては敵同士戦いあった平家の怨霊とトロイア勢ではあるが、こうして宴を共にしている様子をシュガーはまるで夢見心地で眺めているのだった。

そしてふとシュガーは気がつく。ああ、これは俺が見ている夢なのだ。冥界の有様を夢の中で体験することは、平家物語の潅頂の巻から今に連なる、怨霊拳の継承者の資質の１つである。

宴の最中、みなの注目を集めて安徳帝の霊はそのように切り出した。

平家の怨霊たちから歓声がと拍手がわき起こる。思わぬ賞賛の声援にシュガーは苦笑いながらも感謝の言葉がもれてくる。

アニマもシュガーのところに駆け寄って「すごいじゃないシュガーさん！」と弾けるような笑顔であった。

アニマはシュガー契約のエンブリオでありながら闘技大会には参加していない。闘技大会でのシュガーの戦いぶりなど何も知らないようだ。多分、琴の練習で忙しかったのだろう。

歓声は笑い声に転じる。ヘクトールの霊はわはは！と豪快に笑い、封殺を７回もしとげて2勝しかしておらんのか！これはシュガー殿らしいわい！などなどと平家側からもヤジも飛ぶ。しかし、シュガーは嫌な感じはしない。仲間とともにできるだけのことをやったのだ。戦績はその結果である。勝利も敗北も胸を張って受け取ろう。

トロイアの英霊を恃む謎のシスターが笑みをむけていた。これはシュガーにとっても意外なことであった。

眠るシュガーは王城の地下牢の中で寝転んでいた。新王パラダイスに敗れたシュガーは炎上する天蓋庭園へ消火にやってきた王城の城兵に捕縛され、王城内の地下牢に収容されていたのだ。地下牢は暗く淀んだ空気が満ちた気分の悪い場所ではあったが、楽しい夢を見るシュガーの寝顔は幸せなものであった。

おまけ

シュガーは怨霊と会話をしているようです

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

シュガーは時々意味不明なことを呟きますが、
　怨霊と会話をしているのです。気にしてはいけません。