空が見える…星の光が目に眩しい。

ここは…えぇと……どこだっけ……？

まず聞こえてきたのは、珍しく余裕の無さそうなティーの声。

それに、何故か顔や服が少し汚れてるエルとアイの二人が、今にも泣きそうな顔であたしを覗き込んできていた。

大変なこと…？ えぇと確か…。

家でアルと会ってて…。

うーん、そうじゃない。

あれは多分、精神世界的なものだから。

最期にお腹を貫かれたのは、あそこから無理やり叩きだすための手段…そんな感じじゃないかと思う。

その前にお母さんと…いや、あれはあたしがもっと幼い頃の夢―――ただの夢ってわけじゃないと思うけど―――だし。

それよりももっと前、確か…確か……。

新王…パラダイスと戦って……！

起き上がろうとした途端に激しい痛みが全身を走って、そのまま蹲ってしまう。

ティーの言う通り、下腹の辺り…破れたドレスの隙間から生々しい傷跡が見える。

傷自体は無理をしなければ直に治るけど、多分周りの骨が何本か折れてる…さっきの痛みはそんな感じ。

こればかりは一日はじっとしてないと治りそうにないかも…。

そんなことをぼんやり考えていると。

突然、アイがはじかれたように振り向く。

あたしも寝たままの姿勢で、少し首を動かしてアイの振り向いた方を見る。

今は何も見えない……けど、そっちの方から殺気みたいなものが微かに漂ってくる。

殺気の方を向くと、その小さな身体で構えをとるエル。

アイもこくりと頷くと、同じ方を向き魔力を解放し始める。

重いを通り越して、暗く冷たいともとれる口調で言うティーに、思わずたじろいでしまう。

……あぁ、そうだよね。

やっはり、ティーは感づいてたみたいだ。

はぁ…やっぱりごまかせないよね。

元々は、血を分けた双子の弟なんだし…ね。





……向かってきた敵を、どうにかエル達が撃退した後、あたし達はとりあえず安全な場所まで移動した。

そこで腰を落ち着けてから、アルからの指示が変わったことなどを、包み隠さず話をした。

それで、そのことを黙っていたことには皆納得してなくて…。

それはもうティーは激怒してた。

声を荒げてっていうよりは、チクチクと突き刺さるような言葉を何度も言われた…しかも言い返せないよう全て正論で。

泣きそうというか、本当に最後の方は泣いた。

これがきっかけで、ティーがＳに目覚めないか少し心配かも。

……って、あたしは何ティーみたいなこと考えてるんだろう。

エルは「オレ、ソンナニタヨリネェノカ…」って凄くしょげてたし。

アイは表情こそあまり変わらなかったけど、先ほどまで話しかけても何度かは無視するようになってて……今は機嫌も直ったみたいだけど、相当怒ってたと思う。

ほんと、色々なことがあった日だった。

あれが現実の出来事だったかはわからないけど、あの人…アルにあそこまで啖呵を切った以上、もう後には退けないし退く気もない。

そんな決意を抱きながら、あたしは日記を開いていた。

これも元はアルの指示で、この世界に来てからの日課みたいになってたのだけど…。

……うん？

何故か、最後のページが開かれた形跡がある。

使ったページはまだ日記帳の中程までで、そんなところまではまだ埋まっていないはず。

ただの気のせいかなと思って開いてみると…。

そこには、こんなメッセージが書かれていた。


親愛なるロッテちゃんへ！　やっほー！！　元気してたぁ〜？

……といけない、ちゃんとした話なので真面目に書かせてもらいます。

例の『一揆衆を殲滅せよ』という指示ですが、少し貴女を試させてもらいました。

そのせいで、結果的に貴女を危険な目に遭わせてしまいましたね、ごめんなさい。

きっと私の指示と自分の成したいことの間で、思い悩み、苦しんだことでしょう。

ですが、それはきっと貴女の中の壁を打ち崩すのに必要なことだったと私は思っています。

貴女の世界が消滅した事件…あの後の貴女はまるで抜け殻みたいでそれは見るに耐えないものでした。

とにかく何でも構わない、何か生きる理由を与えたくて、私が依頼という形で色々な世界を巡らせたのですが…。

いつしか貴女は、それだけに依存する私の人形のようになってしまっていました。

このままではいけない…そう思い、ずっと機会をうかがっていました。

ティーとの再会という転機もあり、貴女は徐々にではありますが、生きる気力を取り戻していたように感じます。

試すには丁度良い頃合いだと思った私は、例の指示を貴女に出し…そして貴女は私の指示に逆らい、自分の意志を貫いたのでした。

だからもう、貴女は私の人形ではありません。

これからは、まだあの世界があった頃の貴女のように、自分の考えで動き、自分の成したいように振る舞うといいでしょう。

ただ…さよならしたのはあくまで人形だった貴女、途中で疲れたりしたらいつでも私の所に戻ってきていいのですよ。

母親代わりとは言いませんが、それでも私の血を分けた眷属である以上、私には貴女を見守る義務があるのですから。

貴女には帰る場所がある…そのことは忘れないで下さい。

それでは、貴女の行く道に幸あらんことを…。

最後の方を読み終わる頃には、日記の最後のページはぐしゃぐしゃに濡れていた。

そしてそのページは、読み終わった頃には白紙になっていた。

何だろう……白紙になったと思ったら、まだちょっと続きがある。


……ところでロッテちゃん？　アルってこんな真面目な文も書けたんだ…なんて思ってないでしょーね？

ほんとはほんのちょっとだけそう思ってたので、思わず焦って否定してしまう。


後、それはそれとしてぇ〜、着せ替えごっこはやめないからそのつもりでいてね〜？

また色々な衣装が手に入ったから、今度帰ってきた時が楽しみだねっ☆

ちゃーんとロッテちゃんの家で待ってるからねぇ〜。

―――私の可愛い可愛い眷属ロッテちゃんへ、キュートで聡明なアルより♪

パラダイスを何とかするの、もっとゆっくりにしようかな……。

ロッテの方を見ている女性は、ゆっくり味わうように肉をかじっている。
途中金属製のボトルを取り出し、蓋をコップ代わりに中身を注いだ。……湯気が立ち上っている。

物珍しげに杖を眺めている。ロッテの言葉を聞いてから、その目には好奇の光が宿っている。
特に悪意の類は感じられず、駆け引きをするつもりもないらしい。

宝石に拳骨が落ちたことに対し、肩をびくりとさせた。
その後、自分の右肩へと視線を向ける。

再びロッテの方へと視線を戻し、口を開いた。

そう言って、脇に置かれた槍の一本をくるくる回してみせた。随分綺麗で、今は使っている様子がない。