『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.09.01:53、とある施設にて――


　ロボットは夢を見ない。無駄な機能だ。就寝時に夢を見る
命令があるのなら、ロボットも夢を見るだろう。いい加減な
法則の下、適当に選択された映像を繋ぎ合わせて、無意味な
分析を始めるのだ。この行動に何の意味があるのか、俺には
理解出来ない。そうまでして人間を理解し、分析する理由が
全くない。理解不能で無意味な行為だ。

　しかし、今の俺には不思議なことが起きていた。恐らく
何かしらの干渉を受けたのだろう。映像が再生されている。
見たことも、入手したこともない映像だ。



　幼い少女が暗い森を抜けると、幻想的な光景が現れた。
　煌めく大木の元に月光を浴びて虹色に煌めく湖があった。
周囲を取り囲む不気味な森とは対照的に光に満ちていた。
大木の上には小さな小屋があった。そこにいる人物の家だ。
湖へと伸びた大木の根に白いローブの人物が丸まって
座っていた。その人物は少女に気付くと、顔を上げた。
易しい笑みを浮かべた老婆だった。老婆は杖の先端を
少女に向け、何度か振った。少女に来いと言っているのだ。
少女は喜んで大木に登った。

　少女は老婆にいろいろと質問をしては。老婆は
困ったような、嬉しいような複雑な笑みを見せ、少女の
質問に答えられる範囲で答えていった。
「魔法使いになるには三通りの方法がある。一つ目は
生まれながらにして魔法使いの力を持つ者。二つ目は自力で
魔法使いになる方法。三つ目は……何かしらの力を得て
魔法使いになる方法……」
　老婆は側に置いていた杖を手にすると、青青と茂る
大木の枝に杖の先端を向けた。そこには、虹色に輝く
丸い果実が実っていた。果実はその一個だけしかなかった。
「あの果実が水面に落ちた時、素質のある者が食せば、
その者は魔法使いになれる。素質がなければただの
美味しい果実だ。風邪くらいは治してくれるだろうね」

　少女は魔法使いの老婆が大好きだった。本当の家族のように
慕っていた。しかし、生物である以上、魔法使いであっても
それは避けられなかった。老婆は少女に看取られて、
安らかな眠りについた。幸せそうな表情だった。

　少女が悲しみに沈んでいた時、魔法使いの果実が落ち、
湖に浮かんだ。少女は老婆の愛用していた杖を器用に使って、
果実を拾った。
「……とても美味しそうに熟れてるよ」
　少女は魔法使いの果実を口にした。