(※またまた番外編。
　 一回や二回で終わらすのが惜しいと、
　 ついつい続けてしまう悪い癖。
　 だけどやめない。)

桜の木の下でお弁当を広げる。
別のお弁当を真白さんに渡して、
二人で食べ始める。
今日はテストの日だったのだが、
早めに全部終わらせて、
ちょっと早めのお昼という訳である。
じきに二人も来ると思うが。
「それにしても、
　今日はお早いですけど、
　さぼったりしてないですよね？」
ただやはりというかなんというか、
早めに来た私に、
何か感じ取ったのか、
真白さんがそんなことを聞いてくる。
私は手をひらひらふって問題ないとジェスチャーしながら、
「テストだったから、
　さっさと終わらせただけよ。
　見直しも終わってるし、
　暇もてあましてるなら、
　自分のしたい事するのが一番。
　教師も了承しているわ。
　何も問題ないわね。」
「そうですか……って。
　テスト前というか、
　前日にここで読書しながら私と悠長に話してたんですか！？
　テスト大丈夫でした？
　こういう時勉強すると思うのですが……」
「普段から勉強してれば問題ないわよ。
　それに、年季が違うわ。
　これくらい出来ないようでは、
　凡人未満よ。
　一応これでも普通に専門の知識もあるのだけど。」
「……
　なんていうかずるくないですか？
　いえ、私がいえた立場ではないんですけど。」
「成績落とさないようにきちんとしてただけよ。
　成績を上げるための勉強はしてないから、
　別段ずるくはないと思うわ。
　それに、
　教科書の改訂とかあると、
　対応するのに面倒だったりするし……
　まぁ、それなりの苦労もしていれば、
　成績いいのは元々よ。
　最低限の基本をしっかり覚えておけば、
　大体どうにでもなるものよ。」
「成る程。確かに。
　それに記憶は薄れるものでもありますから、
　しっかり記憶し続けるという努力をしている、と。
　そう考えれば条件は平等ですけど……
　記憶力がよくなったり、
　別の存在に記憶させてそれを教えて貰ってるなんてことは……」
「いちいちテストでそんな面倒な真似しないし、
　記憶力は自前よ。
　まぁ、老化がない分、
　年をとって記憶力が落ちるということはないけどね。
　ああ、でも……
　記憶力は元々いいわね。
　私は忘れないわ。
　大切な事も、私の原点も、
　私の失ったもの、
　私の受けた痛みも、ね。
　忘れてはいけないものがある。
　そんな気持ちが、
　他の記憶も残し続けてる可能性は否定できないけど……
　これは別にずるでもイカサマでもないでしょう？」
「……」
どうやら納得してくれたようだが、
私の記憶しているもの。
それの意味を理解したのか、
途端に沈痛な表情になる。
別に気にすることでもないのに、
悪い事を思い出させただの、
悪い事聞いてしまっただの思ったのだろう。
「ま、だから心配ないって事よ。
　そんなに深刻になることでもないわ。
　私の中で完全に消化できている話だし、
　問題は何も無いもの。
　むしろ、笑うくらいで丁度いいと思うわ。
　暗くする為にしたわけではないのだもの。」
だから、気にするなと暗にいってやる。
その言葉を聴いて少し躊躇していたようだが、
私の様子をみてやがて気を取り直したらしい。
「いえ、それでも悪い事いってしまったみたいで、
　すみません。
　――重荷を背負ってあげたいといっていたのに、
　こんな事くらいで気落ちしてしまって――」
「ま、仕方ないわよ。
　貴女はやさしいんだもの。
　だからこそ――救われる人間も多いわ。
　私も少しは救われてるわよ。
　安心なさいな。」
「ありがとうございます。
　うう……
　なんだか私の方が一杯救われているような気がします……
　なんでだろう。。。」
少し遠い目をし始めた真白さんをみて、
私はくすくす笑う。
やっぱり素直ないい子はいい。
実に反応がかわいらしい。
そんなことを考えていると、
不意に授業の終わる鐘の音が聞こえた。
どうやら授業が終わったらしい。
程なくして咲良さんと睦美さんがやってくる。
「本当に先に来てたのか……
　いや、
　咲良がテスト全部終わらせて先にいったっていってたけど、
　ほんとうかい？
　というか、そんなのありなのかよ……」
睦美さんが信じられないものをみるかのように私をみるので、
私はクスリと笑って一つ頷き――
「本当よ。
　だから先にこうしているんじゃない。
　咲良さんが嘘をいうなんてまず無いから。
　つくとしたらよっぽど意味のあることよ。」
「だよなぁ。。。
　頭がいい奴はこれだから。。。」
「私も成績は上位だけど、
　魅月さんは別格というか、　
　少なくとも私よりは格段に上だから……」
「魅月はずるいってあたいはいっていいと思う。」
「それは否定しないよ。」
私の余裕綽綽の態度に、
がっくりする睦美さんを、
咲良さんが慰める。
相変わらず仲のいい事で、
少し妬けてしまいそうではあるが、
こうして長々と話している暇は無い。
いや、正確には暇はある。
暇はあるのだが、
それよりも先にやるべきことがあるといったほうが正しいか。
「まぁ、私の事はいいのよ。
　そんな事より……
　真白さんが話したいことがあるそうよ。
　良かったら聞いてあげてくれないかしら。」
そういって真白さんへと話を振る。
私の発言に少しびくっとはするものの、
一つ深呼吸をして気を取り直したところを見ると、
覚悟を決めて、
話す気にはなったようだ。
ここまできて話さないなんてことはなさそうで一安心である。
「ん？話したい事？
　なんだい？一体。」
「……いいよ。
　ゆっくりでいいからね。」
そして私の発言を受けて、
真白さんのほうを向く二人。
何の話をするのか分かってない睦美さんとは対照的に、
咲良さんの方はなんの話をするのか分かったようだ。
とはいえ、
その内容までは分からないだろうけど。
そんな二人を真白さんは真っ直ぐ見つめ――
「あの、ね。
　私、幽霊なの。」
真っ直ぐに告げる。
今まで話せなかった自分の秘密を打ち明ける。
いきなり核心から話したのは、
きっとこれから話す事について、
そこをまず理解してもらわないと分からないからだろう。
手順としてはなんら間違っていない。
そして、そんな真白さんの言葉に、
二人はなんら驚く様子も無く、
咲良さんは一つ頷き、
睦美さんにいたっては納得したとばかりに手をぽんと叩いた。
「ああ、それでか。」
「道理で……
　魅月さんの友人だから、
　ただ人ではないと思ってましたけど、
　まさか幽霊だったとは……」
「それにしても、幽霊かって……
　幽霊って物食べたり触れたりできたっけ……」
「力の強い霊はできるとかいいませんでした？」
「あー。
　それでか。
　納得納得。」
そんな風に話している辺り、
どうやら驚きもないらしい。
まぁ、これがもっとはやかったら、
びっくりしてくれたと思うのに残念だ。
とはいえ、
これだけ驚かないのだから、
彼女を受け入れないということはなさそうなのが安心だけれど。
「……えっと、その……
　あの……
　驚かないんですね……」
まぁ、この展開を予想はしてても、
実際見ると本人としては色々と複雑な気分なのだろう、
少し肩を落として一つため息を吐いている。
「いや、まぁ、そりゃあ……
　色々……なあ？」
「ええ、よくよく考えればおかしい点がいくつかありましたし、
　この学校の生徒でもないと、
　知らないことを知ってたりする部分がいくつか……」
「はっきりとしたのは咲良にいわれてだけどな。
　――まぁ、別に幽霊でもいいんじゃないかな。
　別に害をくわえるわけでもなく、
　というかむしろ親しくしたいんだろう？
　別にそれは悪い事じゃないし、
　むしろいいことだと思う。
　というか、な。
　幽霊よりもそこの魅月のほうが怖い。
　というか性質が悪い。
　アレと仲良くできるなら大体の奴と仲良くできる気がする。」
「睦美先輩言い過ぎ。
　でも、まぁ、確かに……
　それくらいで驚いてたら魅月さんとは付き合えないのも確かだよね。
　なんていうか……
　その……あ、違う、違うからね。
　魅月さんは魅力的だと思うけど、
　それ以上になんていうか近寄りがたい雰囲気が……！」
まぁ、そんな様子をみて、
真白さんが悪いわけでもなく、
驚かないのは私のせいらしい。
「ま、まぁ、確かに魅月さん基準で考えると……」
しかも真白さんまで納得する。
なんというか……
「あら、私ってそんな風にみられてたのね。
　いたってごく普通だから、
　何かおかしいと思うのだけど。」
『ないない。』
認識が何かおかしくないかしら？
と首をかしげながらいった所、
三人から同じ突込みを受けた。
なんという訓練されているとしみじみと感じる。
「別段変なことをした覚えは無いのだけど。」
解せないわ。と軽く首をふっていうと、
「いや、確かにたまに突拍子もないところはあるし、
　基本的に全く問題ないがないけど、
　なんていうか……」
「ええ。
　なんていうか……
　付き合ってると、性格が凄くよく滲みでてるから。
　だって、その、ねぇ。
　真白さん。」
「なんというか、
　怖い人ですよね。
　基本的に優しいけど、
　敵には容赦ないし、
　味方でも面白いと思ったら躊躇無く弄りに……」
「だよなぁ。
　という訳で、
　これが友達の総意な訳だが。
　あ、でも別に気に病む必要も変える必要もないからな。
　あたいも二人も魅月のことが嫌いというか、
　むしろ好きな部類だし。
　気負いせずにつきあえるし。」
なんというか、
私の事をよく理解して、
得難い友人というのは、
こういうことをいうのかもしれない。
まぁ、気分的には悪くないし、
理解されるのは嫌いじゃない。
「光栄というべきかしらね？
　まぁ、信頼の現われだと思っておくわ。
　別段本気で否定する気はないし。
　さて、と。
　続きを話したらどうかしら？
　それだけじゃないのでしょう？」
仕方ないわねといった風ににっこり微笑んでそう返すと、
どことなく三人がほっとしたような顔になる。
いくらなんでも私に真っ向にいうには多少の緊張があったようだ。
が、私が続きを促すとすぐに真白さんは表情をひきしめ、
睦美さんと咲良さんへと向き直り――
「そうですね。
　続きを話しましょう。
　私の事、それから――
　此処の場所の事、
　全部。
　――貴方達に聞いて、
　私の事を覚えていて欲しいから――」
真剣な願いをこめて、彼女は語る。
彼女の、
この桜の今までの物語と在り方を。
それを二人は真剣に聞いて時に驚き、
時に悲しみ、
時に喜んだ。
悲しい話もあれば、
報われる話もある。
その全てを私達は聞いた。
――やがて話は終わりを向かえ、
真白さんは一つ大きく息を吐いて――
「これで終わりです。
　本当はまだまだあるのですが、
　流石に一気に語るものではありませんし、
　これで少なくとも私の秘密……
　私の隠していたことです。
　……これだけ話せば十二分に伝わると思いましたので。
　それで改めて聞きたいのですが……」
私と友達でいてください、
そんな真白さんの言葉をさえぎるかのように。
「まぁ、なんだ。
　もう友達だし、
　それくらいでやめたりなんてしないっていうか、
　その……
　むしろ尊敬したよ。
　えらいんだな。
　私なんかより、さ。」
「うん。
　私なんて感動しちゃったよ。
　凄いんだね。
　真白さんは。
　――私は真似できないや。
　よく生きてっていったらおかしいかな。
　こうして私達と出会ってくれたね。
　私は誇りに思うし、
　そんな貴女の友達でいたいと思う。
　だから……」
『これからもよろしくね。』
二人はこれからも真白さんの友達でありたいと告げる。
嬉しかったのかぽろぽろと真白さんは涙をこぼし始めた。
そんな真白さんを慰める二人。
――ああ、
本当によかった。
そんな様子を私はにこやかに眺め、
やがて真白さんも泣き止んで一段落したところで……
「なぁ、ところで……
　真白は魅月のことどれだけ知ってるんだ？
　ひょっとして私達より詳しいんじゃ？」
そんなことを睦美さんが言い始めた。
「それがその、私もそんなには……」
当然の如く、真白さんとてあまり知らない。
そこまで深くはかたっていないからだ。
「何。
　私にそんなに興味があるのかしら？」
だから――
私から仕掛ける。
「えっ、あー、
　いや、その……」
するととたんに挙動不審になる睦美さんに、
真白さんと咲良さんも少し目をそらした。
興味はある。
聞きたい。だけど本当に聞いていいのか。
その判断ができないのだろう。
さてと、
私はどうしようかしら？
本当のことをいうか、嘘をいうのか。
それとも、
まったく別の道を選ぶのか。
――私の決断は――

なんか不機嫌だ(最初からずっと不機嫌だけど）。
ほっとくと食べない〜は他の誰かから言われた事があるのかもしれない。

肩までよじ登った透明猫又、霊的接触で掴んでポイされた。