金烏と夜凪を迎え入れてから、なんとなくではあるが、さらに素早く動けるようになった気がする。
しかしまだ二人の姿は見たことがない――そんな状態が続いていたある日、いつものように剣や集めた刃物の手入れをしていると、ふと視界の隅に光がちらついた気がして、私は手を止めた。
あの光には覚えがある、エンブリオたちが発している光だ。
けれど、時風たちは今は休んでいる――ならば、一体誰が。
軽く辺りを見渡して、目を細めていると、物陰からこちらを伺う少女の姿が目に入り、そちらに視線を向けた。

「……、……」
「……あ……あの……」
「……もしかして、金烏ですか」

少女の背から生えた烏の翼を見て、ぽつりと名前を呼ぶ。
すると彼女は驚いた顔をしてから、こくりと小さく頷いた。

「……なるほど、槿花の言っていたとおりですね」
「な、なんでわかったんですか……」
「事前にどんな姿をしていたのか、聞いていたので」

金烏は恐る恐るというように物陰から出てくると、近づいてくる。
そしてふわりと宙に浮き、私の顔の高さまで飛んできた。

「……どうかしたんですか、外に出てくるなんて」
「……マスターにちゃんと挨拶しておこうと思って……」

そういって、金烏はゆっくりと手を差し出してきた。
私の手よりも小さな手は、よく見ると鋭い爪のようなものが生えている。

「……名前、つけてくれてありがとう。これからよろしくお願いします、マスター」
「……。……こちらこそ」

そっと彼女の手を握り、微かに笑う。
私の目の前にいる少女は、少し照れくさそうに笑っていた。