『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.09.01:05、とある施設にて――


　少女は何処に居る。この広い電脳の世界の何処に居る。
今すぐに少女に会いたい。


　あれから一時間以上は経過していた。手がかりもなく、
情報を求めてリリィを頼ったが、彼女は何も知らなかった。
　少女からの呼びかけもない。
　ディバイダーの言葉をそのまま信じるなら、彼が少女に
危害を加えることはないと思われるが、少女のことが
心配だった。
　パンドラ、君は何処に居るんだ。無事なのか？
　連絡手段はない。こちらから呼びかけるしかなかった。

　水晶の映像が消え、元の透明な水晶に戻る。。
「力になれなくて御免なさいね。彼女に会いたければ、
気長に待つしかないわよ」
　リリィは何処からか紙の束を取り出し、ぺらぺらと
捲った。視覚的には紙の束だが、何らかの情報の塊が
そこにあった。かなりの量があるようだ。
「でも、何も分からないんじゃ悪いわね。お詫びに
この世界での活動が少し楽になるものをあげる」


　俺は何をしているのだろうか。焦っても何も出来ないと
判っているが。不安は消えなかった。
「退屈かもしれないけど、少し付き合ってくれない？」
　リリィから貰ったものは、電脳世界での自己防衛強化の
情報だった。自己防衛機能なら十分に持っていた。
競合を避けるために使うつもりはないが、貰っておく。

　情報の受け渡しに時間がかかるため。暇つぶしに
リリィと共に薄暗い部屋で昔の映画を見ていた。
　古い時代の……旧世界の中世を舞台とした男女の
恋愛ものだった。身分違いの恋に落ちてrしまった二人が
引き離されながらも、お互いを求め合う。
　今の俺の現状に似ていないだろうか。恋愛ではないが、
少女と引き離され、俺は少女の安否を気遣って、
少女を捜そうとしている。
　いつしか、映画の中の二人が自分と少女のように
見えていた。

　映画を見ながら、情報の受け取りは完了しつつある。
しかし、その裏で情報の受け取りと同じく優先するべき
処理を行っていた。行動の処理に重みを感じるのも当然だ。
重みが解消されるまで、映画に専念していた方が良い。
　楽な姿勢で映画を見ながらも、身体の怠さは感じていた。
睡眠も取っていないのだから当然のことだ。
　眠った方が楽になるんだろうが、今はリリィの映画鑑賞に
付き合っている最中だ。眠れなかった。
　同時に行っている処理が、かなり重くなっていた。