思い返す記憶はいつでもそこで突き当たりだ。そこからすべて始まっている。その言葉がどこまででも僕を決定付けている。
　すなわち自分の価値がどんなものか、自分は何が欲しいのか、それを得るための条件は何なのか。付けられる序列のどこに自分が位置するのか。その把握は、ほとんど最重要課題だったから。
　だから最初の一言が、そのすべてを僕に教えた。深みまで食い込んだものは今なお動かない。


　価値は優秀。求めるのは称賛。条件は頭脳。序列は最上。
　それが道筋を開くことを、あの頃から既に確信していた。自分の前にそうであった兄たち、あるいは姉たち。そのすべての姿が、今見えない理由を知っていた。


　彼らは僕の価値を認めた。だからこそ僕はあの場所からいなくなった。その後も幾度となく彼らが出入りしたそこに、僕はあれ以来一度たりとも足を踏み入れたことがない。
　あそこは商品棚に過ぎない。神様の慈悲と救済を謳った人の売場。そんな場所に、金も人手の必要もない者の行く理由はない。
　幸いにして誰かがまたあそこから連れて来られることはなかった。けれどそれも僕がいた間のことだ。今頃誰かが空いた僕の席に座っているに違いないと、僕は信じている。


　踏みつけたガラスが砕ける。聖母を描いたステンドグラスの一欠け、激しい戦闘の余波で割れ落ちたそれにもはや価値はない。かつてどんなに美しくあっても、どれほど祈りを捧げられていても、もうただのゴミに過ぎない。
　例えば誰かが拾い上げて、何かの装飾にでもしない限り。
　そこがモノと人との違いだ。誰かに拾われるのを待たない限り輝く機会すら与えられないモノと、自分で自分の磨くべきを見つけ、輝くべき場へ向けて走り出せる人の。


　顔を上げれば彫像がこちらを見つめている。誰とも付かない女の顔へ、すっかり板に付いた光弾を一つ撃ち込む。破砕音。敷き詰められたカーペットの上に頭だったものが転がる。
　過ぎったはずの面影。かりそめだろうと母と呼んだ人の。確かに見たと思ったその人の顔が、もはや思い出されることはなかった。