「―――起きな。そんなとこで寝てたら風邪引くよ」

ふぁ……わたし何して…。

どこか懐かしい匂いが、辺りに広がっている。

ぼんやりとした視界には、空になった食器が置かれていて。

どうも、ご飯を食べた後そのまま寝ちゃってたみたいだった。

……何だか、頭がズキリと痛む。

「この後稽古行くんだろ。とりあえず食器片付けちまいな」

「あ…そっか。お片づけしなきゃ」

そう言って、わたしは食器を持って台所で洗い物をしているおかあさんのところへ…。

……おかあさん？

……違う、そんなはずない。

だって、あの世界はもう……無くなったんだから……。

だからこれは夢。

あたしがまだ、幸せを噛み締めていた頃の…。

いつの間にか、同じくらいの背丈になった背中に、あたしは出来る限りの笑顔を作って、

「お母さん、あたし…もう行くね」

「全く―――は泣き虫だねぇ…ほら、さっさと行っておいで…」

振り向きながらのそんな言葉が帰ってきたところで、あたしの意識は遠のいていった。

ただ、一瞬だけ見えたその顔は慈しむような笑顔だったような気がした…。

聞き覚えのあるそんな声で、あたしは目を覚ました。

寝ているあたしの顔を覗きこんでいる幼い少女が、呆れたように言う。

空腹だったのか、差し出された串焼き肉を素直に受け取る。
それを口にくわえると、保存袋と思しき物から塩漬けの魚を取り出して同じように焼き始めた。
折角だからと食事休憩にするつもりらしい。手でよければどうぞ、と示して肉を頂く。

突然ぼそぼそと独り言を始めた（少なくとも、他人からはそうとしか見えない）ロッテを怪訝な目で見る。
こういう場合は幾つか候補があるが、最も有力なのは……。

カマ掛け半分でそう問いかけた。
不思議な力を感じるのは嘘ではないが、名のある武器というのは大体そんなものである。