このいっきがおこったもくてきは、おうさまをとめること。
そのもくてきを、セリィおねえさんはついにはたしたのです。

これでいっきもおわりになるはず。
これで、おねえさんといっしょに――

そうおもいつつも猫のこころはしずんでいました。
なぜなら――


『…おねえさん、ちょっと小生そのへんまでいってくるのです。』


そうつたえて、このばからはなれようとしました。
このまえもそうやってひとりすすんだせいでしょう。おねえさんはすぐに猫のほうにふりかえりましたが、猫はもじもじとしてはずかしそうにわらいました。


『だいじょうぶなのです。その…おてあらいにいってくるのです。』


それであんしんしたのか、おねえさんもそれいじょうはとめようとせずに、猫はひとりみちをはなれました。





















もちろん、おてあらいなんてうそ。
みんなのすがたがみえなくなるところまではなれてしばらくしたところで、猫はすわりこみました。


じぶんは、なにもできなかった。
――おねえさんをまもれなかった。


そんなくやしいおもいがこみあげて、猫はぽろぽろとなみだをこぼします。
こんなみっともないところを、おねえさんにはみせたくない。
おねえさんのヒーローになるってきめたから。
だから、くやしなみだはこっそりと。










ひとしきりないてすっきりして。
猫はかおをはんかちでふきながらかんがえました。

これでいっきはおわりなのかもしれない。
でも――あのくろいもやもや。
あれをほうっておいていいんだろうか？
おねえさんは、どうするんだろう？



いったんおねえさんとはなしあったほうがいいかもしれない。
ちょっぴりおそくなってしまったし、みんなのところにもどろう。

そうおもって、すくっとたちあがって――



「――一人か。都合が良い。」


『！？』


いきなりうしろからこえをかけられたとおもうと、つよいしょうげきが猫をおそい――猫はまっくらなやみへといしきをてばなしました。




















































――



―――？



ここは――？






めをさました猫はぼんやりしながらあたりをみまわします。

どうやら、みおぼえのないばしょのようです。


『――！？』


ようやくいしきのはっきりした猫はがばっとおきあがりました。
いしきをうしなうまえ、たしかにだれかがしゃべったはず。
あれはいったい――






「――目を覚ましたか。」


『！』


とつぜんかけられたこえにびっくりしてめをむけると――


『！？』


それは、おとこのひとでした。

みなりのととのったきぞくのようなおとこのひと。

――猫のきおくにただひとつのこっているひとのかお。



わけがわからずこんらんしていると、そのおとこのひとはつかつかと猫のほうへとあゆみより――



『ッ！！』


とつぜんのおなかのいたみとしょうげきに猫はころがりながらせきこみました。


もっていたつえをふるって猫をうちすえたおとこのひと。
そのひとみはきおくにあるのとはまったくちがう、とてもひややかなひとみで――


「会いたかったぞ、ロク。貴様が生きていると知って、私はどれだけ貴様と逢いまみえるのに焦がれたことか…。
それにしても…半端に人の形をとるか。その姿もリクを殺した事で得たのか？…忌々しい！！」


――ころした？
――だれが、だれを？


「私は絶対に貴様を許さん。今度は必ず貴様を殺す。我が息子、リクの為にもな！！」









あのひとはなにをいっているんだろう？

わからない。

でも、あのめ。

じぶんをつめたくみすえる、あのめ。

ほんとうにころすつもりのめだった。

こわい。

にげないと。

どこへ？

わからない。

わからないけれど。

とにかくここからにげないと！！




猫はいたむからだをむりやりうごかして、そのばからかけだしました。

プスプスと燻りながら二人の目の前に倒れこんだ。

頭を抱えるししょーを生温かい笑みと眼差しでニヨニヨ眺め、満足そうに頷いた。
ついでに「おっといけないいけない」などと言いつつ口の端に零れた涎を拭う。

自信満々に言い放ち、ポヨンと高く跳ね上がって空中でまん丸の球体に変形する。
そのままボンヨヨヨ〜〜ンと着地、見事なまでの真球姿を披露。
……ただし体積は変わっていないようで、直径はおよそ１ｍ半といったところである。
当然、キャッチボールには向かない……。

うしろからやってきたのは――どうやらおってのようです。

くるしそうにそのばにすわりこみました。

黒猫の少年が 一向に戻ってこないことを訝しく思い、
少し心配そうな面持ちで、鳥と羊のエンブリオ…　ししょーとセバスチャンに話しかける。

捜しに行くか一瞬迷ったものの…　
行き違いになることを恐れ、もうしばらく待とうと考えたようだ。

しかしその表情は、どことなく不安げな色。　そうして更に時間が過ぎ……

メッセージの添えられた手紙とともに、料理が送られてくる。