『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.09.00:15、とある施設にて――


　面倒な手続きを踏んで、電脳の世界を深く潜る。
　様々な映像、音声、数字の羅列が流れては消えていく。
現実の世界を電脳の世界に再現したコミュニティの
一つ一つが流れては消えていく。煌びやかな
仮想の現実に用はない。

　妖精の格好をした女性、濃い化粧に派手なドレスの女性が
何かしら声をかけてくる。彼女らに用はない。無視して
深く潜る。去り際に人間らしく一言残したのが
気にくわなかったらしく、彼女らが口汚く罵った。
冷静に分析すると、俺の一言に非があったのだが、
今はどうでもいい情報だ。彼女らを無視して、必要な
情報を探す。


　その華奢な女性は黒のローブに身を包み、布で
口元を隠していた。右手には水晶の玉を持っており、
左手で水晶の玉を撫でていた。左手にはいくつかの
指輪が輝いている。
「……あら。珍しいタイプのお客様だわ。貴方はロボット？」
「そうだ。人間以外では駄目か？」
　彼女は首を振る。
「ちゃんと支払って頂けるなら、相手がロボットでも
他の惑星のお客様でも、何処かの魔王様でも、誰でもいいわ」
「そうか。よかった。貴方が駄目だったら、更に危ない橋を
渡らなければならなかった」
　彼女は目を細める。
「……ふぅん、何だか訳ありのロボットさんね。いいわ。
ただし、私を巻き込まないで頂戴ね」
　お互いの目を合わせ、開示された情報から、
ある程度の察しは付く。お互い様だった。俺もこの女性と
深く関わらない方が良い。
「ああ。貴方を巻き込むつもりはない」
　紙媒体の形状をした情報を差し出すと、彼女の顔に
笑みが浮かんだ。
「いいわ。では、奧でお話ししましょうか。二人きりでね」
　紙媒体を確認しながら、彼女は奧へと向かった。

　話をする間に彼女の表情が曇った。
「……貴方の探しているのは間違いなくパンドラね。
パンドラなら、私も知ってるわ」
「知っているのか？」
　女性は微笑む。
「私もあの子に助けられたことがあるからね。命の恩人よ。
でも、あの子に関しては、殆ど情報がないのよね」
「どういう意味だ？」
「彼女が何処から来たのかわからないし、誰も知らないのよ。
いつの満仁か電脳の世界に現れて、誰かの助けをして、
いつの間にか消えているの。消えたと思えば、普通に
居たりする」
　握った両手をぱっと広げる。
「神出鬼没の電脳のウィザード。それがパンドラよ」