秘匿され、神秘性を保てるからこそ、王は王として君臨できていた。
しかし、今や既に居所が分かり、正体が分かり、手の内まで明らかにされてしまった。
そんな王がこれからも君臨し続けることができるのか。
否。
断じて否である。

　秘匿され、触れ得ざる存在。
双子の兄妹が同時に思い当たるのは、虹色天幕のボスたる『偉大なる金色』
名前以外には何らの情報も知らされていない存在。
一人は皆の為、皆は虹色天幕の為。
虹色天幕団員の生殺与奪の一切は偉大なる金色によって握られている。

　何にでも表があり、裏がある。
この50日あまりで色んな者に出会ってきた。
王に希望を託す者、王を疎んじる者、王に関せず我が道を行く者。

　感謝してくれる人がいるから頑張る。
そんな殊勝なことを思うような絃繰緑ではない。
兄以外の誰かから感謝されようが恨まれようが歯牙にも掛けないのが絃繰緑だ。

　しかし、兄である縁は違う。
極力争いを避けたい。なるべくなら誰も傷つけたり殺したくない。
そうした一方で戦闘で生じる高揚感、殺戮を行う際に催す悦楽感に、自己嫌悪を覚える。
だが、それでも妹を護る為に戦う。

　そうした兄に、多少なりとも前向きに戦いに向かわせてやろうという妹の、緑なりの気遣い。
更にはその緑の気遣いによる嘘を、嘘だと分かりながら受け取る縁。

　緑と縁。
互いに歪ながらも、互いが互いを想う兄妹。
死によって分かたれるまで戦う運命から逃れられないであろう兄妹は、戦いに臨む。
隠然と自身らの運命を縛る虹色天幕の『王』に抗うことができない無力感を拭い去るように。