（今回の日記はEno.1952さんの前回の日記とリンクしています。忍者視点。）



冬の淡い陽射しを受けて、キラキラと輝く金糸の波。
――そう見紛うばかりのものが、忍の目線から僅か下に存在していた。



その日忍は、待ち合わせの場所にやってきた相手の様子に首を傾げざるを得なかった。
一言で現すなら、

不　審。

相手がカサネと分かっていなかったら、警戒してもおかしくない状態である。
いや、分かっていても挙動が不審なのは間違いないのだが。
マフラーを頭からぐるんぐるんに巻いた、それこそ“仕事”中の忍者もかくや…という姿に、
一体どうした事かと尋ねてみれば…


「………成程」


外されたマフラーの下、見事なまでの金髪を眺めながら、彼の説明に頷く。
光属性のエンブリオを持つPTMによる事故…とまではいかないであろう、ちょっとしたアクシデント。
こちらの世界でも、属性の影響が髪や眼の色に出るといった事が稀に起こり得る。
水の精霊と共に生まれた弟は、夜空に海を溶かした様な髪と氷色の目を持つ。
故に、初見こそ驚いたものの理由さえ聞けば成程、とすんなり納得がいった。
この場合は、生まれ持ったそれとは違って術の影響のある間だけの様ではあるが。


「わ、笑うなよ……？」


そんな事を思いながら見慣れぬ金色に見入っていたら、
先程からいたたまれなさを全身から発している青年から搾り出す様な声が漏れた。
特に害がある訳ではないものの、目立つ事を苦手とするこの青年からしてみればとんだ災難だろう。
だが、そのゴージャスな見た目と裏腹な態度がどこか微笑ましく思えてしまい、ふと表情が緩む。
それに……


「……存外、似合っている」

「Σ?!…や、やだよ！落ち着かない…!!」


正直な感想だったのだが、やはり即座に否定の声を上げられてしまった。
睫までもが金にけぶり紫眼を縁取る様は、どこか豪華な細工物のようだともひっそりと思ったが、
それを口にするには至らず。そうだな、と同意して、その頭へと手を伸ばす。


「元の色の方が、こちらも落ち着く」


さらりとした感触が、掌を擽った。
どうやら色は変われど、その触り心地までは変わっていなかったらしい。
心の中で（…うむ）と頷いて、さらりさらりと頭を撫でる。


「……あんた面白がってないか…？」

「？　そんなつもりはなかったが……気に触ったか？」

「……別に」


ならばよし、とばかりに、尚もさらりさらり。
いいよもう…と俯いた青年の口からは不満げな声が上がる。



――けれど結局。暫しの間、髪を撫でるその手が払われる様な事は、無いままであった。