赫が散る。咲き乱れていた赫い花。
　ネクターが少しずつ、少しずつ、ちいさな蕾になっていく。

　おうさまから黒い霧が抜ける。クロキシを倒したときと同じよう、黒い霧が抜けていく。
　それは今度は庭園の奥へ、奥へと消えていく。
　緑は何か言いながら、ぽつぽついって歩いていく。

　緑は去り際に、恐らく奪われたネクターはここに集められてるっていってた。
　実際そうなんじゃないかな、って思う。こんだけの量のネクターだもんなあ……。
　実際これだけ、これがあればっ、ヘイムさんは助けられるっ――。

　あとは、メルンテーゼのわやくちゃを、おうさまに何とかしてくださいっ！　って、お願いすれば、いい。
　おはなし、聞いてくれるかな？　いきなり襲われたし、それを話す前におうさま、行っちゃったし……。


　でも、さ。
　なんか、いやな予感がするんだ。


　そんな予感から逃げるように、ネクターを集めて早々にこの場を、天蓋庭園を立ち去った。
　あいさつも早々に手を振って、破壊された壁のひび割れへと入って、ひょいっと降りて、くぐって。
　――ひかりがキラキラあふれている、清らかでおごそかな、ある場所へ。

　そこは、あいかわらず。
　カミサマの像が並び、きれいな透き通った細工が、絵が、いろいろがある。
　前に来たのは、もう２週間くらい前になるのかな？　
　だけどそこは、あいかわらず。

　ちょ〜っと前に、律法騎士団とぶつかった、あのあたり。
　――大礼拝堂の大広間。

　そこは変わらず幻想的で、神聖で、きよらかでおごそかで。
　ふと沸いた、黒いいやなナニカを、感じを、振り払って、浄化してくれるんじゃないかな、って思ったから。


　緑が口からこぼした言葉、≪絶望のアナグラム≫。
　それを聞いた辺りからかな？　なんだか、少し、いやな感じがするんだ。
　なにが？　って聞かれたら、あんまりどういう感じかってうまく、カタチにできない、けど。


　あなぐらむ、ていうのは、ボクにはわからない、わからないんだけど。
　でも、ね。



　“絶望”
　　――たしかその意味は、“希望を失うこと”、だった気が、したん、だ。



　ボクがもうひとつ、つよくつよくねがっていること。
　メルンテーゼが、前みたいに――ううん。おなじ、でなくても、わやくちゃがなんとかなっていい世界になるようにって。
　ねねさまたちも、ヘイムさんも、いきるのに困らないような、いい世界になるようにって。
　それが、こいねがうのぞみ。


　でも。
　――なんだか、いやな、予感が、するんだ。


　どうか。
　――それがただの、キノセイでありますように。

ソウさんのいきなりの『ご挨拶』に、しかしロッテはといえば、

周囲を漂うネクターを見つめ、

静かな殺気を一瞬だけ、滾らせるのだった。

ソウさんが言いかけた言葉に対して、一瞬首をかしげるが、特に疑問を持っている様子はない。

ふんす、と鼻息でも聞こえてきそうな調子でまくしたてる。

……と、今まで軽くこのやりとりを聞いていたロッテからツッコミが入る。

よく耳を澄ませば、そんな言葉が聞こえてきたかもしれない。

シャリン――、シャリン――
　どこからともなく音がする。

　　　シャリン――、シャリン――
　　　　それは、だんだん近づいてきている、そんな気がする。