今日はなんと、ユカラとクリスマスデートの日。
　ダメ元で私が誘った訳だけど、すんなりユカラがOKするとは思わなかった。
　サクラやレイヤ先生達とクリスマスパーティの予定があるか、アズちゃんに誘われたりしてると予想していたので、なんか嬉しい。
　やっぱり、ほら。クリスマスにデートとか憧れるじゃない、リア充っぽくて。
　去年、サクラとレイヤ先生のクリスマスデートのプランを立てるために、小熊さんとデートコースを下見に行ってきた経験がどうやら活かされそうである。
　公園で待ち合わせをした私が時計台の下までやってくると、既にユカラは到着していたようで、マグノリアちゃんと一緒にベンチに座って仲良さそうに話していた。
　
　「あっ、深雪様！おはようございます！今日はユカラとデートなのですよね。お二人とも楽しんで来てくださいませ！」
　
　私にベンチを譲るように立ち上がったマグノリアちゃんは、一礼すると手を振りながら走り去っていった。　
　
　「おはよう！って、えっ！？マグノリアちゃん帰っちゃうの！？」

　追いかけようとした私の腕を、ユカラが掴む。

　「追いかけんな。マグノリアは、深雪が来るまで僕が暇しないようにって、待つのに付き合ってただけだ。一緒に来る？って声はかけたけど『私が一緒に行ったらダメなんで。』って顔色悪くなったから、無理して誘わなかった。」

　「えっ、何がダメなの！？マグノリアちゃん、もしかして私の事嫌いになった！？」

　狼狽える私に、ユカラが呆れたようにため息を吐いた。

　「知らない。気になるなら後で、マグノリアに聞いたらいいだろ。それより、今日はデートの予定じゃなかった？違うなら帰るけど？」

　「いやいやいやいや！？デートだよ、私も来てんじゃん！来て早々、帰んないでよ！」

　私はバッグに仕舞ってあったデートのしおりを取り出すと、ユカラに手渡した。

　「何これ？」

　「ん？何って、デートコースのしおり。行き先纏めておいたほうが、逸れても合流できるし、予定が分かる方が時間を有意義に使えるでしょ？遠足みたいで面白いかなって。」

　私の作ったしおりを、興味深そうに眺めるユカラ。

　「へぇ、遠足ね。聞くのは初めてだけど、面白そう。最初の行き先は……水族館？」

　「うん。ユカラと行くなら、先ずここが一番かなって。そんじゃ、行こっか。」

　スキップしながら前を行く私に、ユカラは頷くと後に速やかについてきた。
　
　入り口で水族館の入場券を買った私は、ユカラに券を一枚手渡すと入場ゲートをくぐった。
　目の前には早速ペンギン達のプールがあり、かわいいペンギン達がプールで泳ぎながらこっちの方を眺めていた。

　「ほら、これがペンギンだよ。かわいいでしょー。ペンギン見てると、なんか癒やされるんだよねー」
　
　私がペンギンを眺めている横で、ユカラは看板にあるペンギンの説明文を読んでいた。

　「ペンギン。またの名を人鳥。愛くるしい姿をしているが、両翼のフリッパーから巻き起こる真空波は岩をも砕く……だって。見かけによらず強いんだな、ペンギン。」

　「えっ。それ、私の知ってるペンギンと違う。ってマジで書いてある！？そんなヤバいのこんな貧素な柵で飼ってていいの！？」

　ふと、ペンギンの愛くるしい顔と目が合ったので、私は後ずさりしながらユカラの袖を引っ張ってペンギンのプールを後にした。

　「ペンギンもいいけど、ユカラに見せたかったのはこっち！」

　私が指差す水槽には、白や青色、薄桃色や黒色の、宝石のように煌めくクラゲが優雅に泳ぎまわっていた。

　「これは、クラゲ？ブレインとは形が違うけど、ボールが浮いてるみたいですごく綺麗だ。」
　
　「でしょー？これは、ブルージェリーフィッシュって言うんだよ。色が違っても同じ種類なんだって。光が当たってるとほんと、生きてる宝石みたいだよねー。」

　私の説明を聞きながら、食い入るようにクラゲの泳ぐ姿を見つめるユカラ。
　さすが、ファンシーなクラゲのTシャツを着てくるだけの事はある。
　一歩間違えたらドン引きなこのシャツに合わせて、無難な色で纏めたオシャレなユカラの着こなしは、アズちゃんのベストチョイスあってのものである。
　アズちゃんの服選びのセンスに感謝しつつ、他のクラゲも目を輝かせて眺めているユカラの歳相応の表情を眺めていると、私もつられて嬉しくなった。
　
　「サクラとレイヤ先生にクラゲ見せたら、錬金術の素材の話になって揉めそうだから誘えなかったんだよね。ユカラを連れてきて良かったよ。」

　私が苦笑いすると、ユカラは「確かに。」と頷いて笑った。
　クラゲ以外にも蟹とか、魚とかを見て回ったけど、何故かそっちの感想は美味しそうとか、何人前はありそうとかいう話になって、まるで魚屋の生け簀を見てるような気分になった。
　
　「水族館、楽しかったよ。次は昼食に喫茶店だっけ？」
　
　お土産用にクラゲの縫い包みを買って機嫌が良さそうなユカラは、しおりを指さしながら私に尋ねた。
　
　「……なんか半分、魚市場に居るような雰囲気だったけど、楽しかったならいいか。うん、まぁ私がよく使ってるとこ。別に特別美味しいって程じゃないけど、教えておきたいかなって。」

　「なるほどね。色々、考えてるんだ？それじゃ、深雪のオススメのお店に行こう。」

　水族館を出て、赤レンガの建物の喫茶店に入ると、二人で座れる落ち着いた雰囲気の席に案内された。
　お冷と、ランチのメニューを店員さんが持ってきたので、私はメニューを開きながらユカラに話しかけた。
　
　「私はオムライスにするけど、ユカラは何がいい？あっ、サラダとスープと飲み物はセットで付いてくるからね。」

　「野菜と、肉が取れれば何でも。飲み物も別に何でもいい。」

　何だその、なに食っても一緒みたいな返事は。
　
　「んー、じゃ私がオススメ選んどくわ。ハンバーグセットがボリュームもあっていいと思う。どうよ？」

　「ん、じゃ、それで。」

　頷くユカラ。
　そういう返事は、普通女の子のがするんじゃねーの？と思いつつも、私は店員さんを呼ぶとオムライスと、ハンバーグランチを注文した。

　「お飲み物は如何いたしましょう？」

　「んー。食後に、紅茶で。ミルクとレモンは無くていいです。」

　ユカラも特に意見が無さそうだったので、飲み物は一緒にすることにした。
　料理が来るまで、二人でしおりを眺めながら行き先について話し合った。
　
　「お昼食べたら、次は遊園地？深雪、そういう所好きなんだ？」

　「ちょっと。ユカラの楽しめそうな所をチョイスしたんであって、私が好きな場所を選んだわけじゃないんだけど。あ、遊園地好きだけどね、結構。」

　「やっぱり、好きなんじゃないか。あれだろ、うさぎの着包みの人に風船貰うのが楽しみなんだろ？」

　私の心を確信したように、ユカラは言い切った。　

　「何でそんなニッチなとこから攻めてく訳？いや、そりゃうさぎさんの着ぐるみの人いたら喜ぶけど、それだけが目的じゃねーし。」

　ぶっちゃけ、教会のイルミネーションが始まる夜までの時間つぶしに選んだだけだとは、ユカラには、言わなかった。
　サクラとレイヤ先生は遊園地のお化け屋敷で、いい雰囲気になったとか聞いたけど二番煎じで美味しい思いをしようと思わないし、何よりお化けとか超苦手なのだ、私が。
　ノウァからクリスマスプレゼントに、血塗れのサンタの入った箱送られてから、すっかりトラウマになってしまって今もこのザマである。
　
　「ん、なんか震えてるみたいだけど寒いの？風邪でも引いた？」

　どうやらトラウマを思い出して、いつの間にか震えていたらしい。
　ナイトメア・ビフォア・クリスマスはもう二度と経験したくない。

　「な、何でもない。ちょっとトラウマ思い出しただけ。先にいっとくけど、お化け屋敷は行かないからね！」

　「つまり、お化け屋敷には絶対連れてって欲しいってこと？」

　「ダチョウ倶楽部じゃねーよ！？ほんとにおっかねぇんだよ！」

　「あの、お客様。周りのお客様もいらっしゃいますので、お静かにお願いします。」

　テーブル叩いてまで力説する私のツッコミに、店員さんが静かにツッコミを返した。

　「あ、すみません。静かにします。」

　それから大人しくしてると、オムライスとハンバーグが運ばれてきた。スープとサラダも勿論セットである。

　「目玉焼きが乗っかってる。豪華だ。」

　私のオススメのハンバーグに、感心するように呟くユカラ。

　「んっ、ふっふ。オススメしただけはあるでしょ。どうよ、このボリューム。私は慎ましくオムライス食べるけど。」

　スパゲティとカレーは、なんか汁が跳ねて服に付きそうだったので、無難にオムライスを選んだだけである。
　そんな私の気遣いを余所に、ユカラは豪快にフォークとナイフを使ってハンバーグを食っていた。
　
「ごちそうさま。量もあって美味しかった。」

「ん、美味しかったみたいで良かった。でも、口んとこ汚れてる。」

　私は紙ナプキンを取ると、ユカラの口元を拭った。

「別に、言えば自分でやるのに。変な所でお姉ちゃんぶるよな。」

　ユカラの小言は、年上の余裕でスルーする事にした。

「紅茶で一息ついたら、遊園地行くよー。うさぎさんのショーとかやってるといいなー」

　私が紅茶をすすると、ユカラは見透かしたような目でフッと笑った。

「やっぱり、それが目的か。」

　

　


　―覚醒編へ続く