(※ああ、やっぱり本編は駄目だったよ。
　 もう本編無くていいんじゃないかな？
　 と思いつつ、番外編です。)

「ペルチェさんもふると心が安らぐわねぇ。」
もふもふと後ろからペルチェさんを抱きしめ癒されつつ、
のんびりしていると、
ふと眠気が襲ってきた。
穏やかな陽の光に照らされ、
春の陽気うららかに。
あれはそう、まるで――

桜舞い散る入学式の春の日。
私は一人、
桜の下で桜を眺めていた。
入学式はもう始まっている。
私も入学生として参加しなければならないのだが、
あんまり桜が綺麗だから、
サボる事にした。
――さすがに高校の入学式も数回もやってると飽きる。
たまにはサボってもいいと思うので自主的に。
幸いにも私を探しに来る人も、
私を見つける人もなく、
穏やかな時間が流れてゆく。
どうやら、
私が目をつけて今いる場所は、
絶好の穴場なのかもしれない。
喋る相手もからかう相手もいないのは、
さびしくはあるが、
元よりサボっている身である以上、
そのほうが好都合というもの。
桜にもたれかかって座り込み、
本を読む事にした。
誰かがくればよし、
誰もこなければ、
適当な時間に帰るだけ。
まぁ、さぼった事について、
後で学校側から何かいわれるだろうが、
気にした事ではないのである。
そうして、
本を読み始めて３冊目に入る頃だろうか。
ふと、人の気配を感じた。
そっとしおりを挟んで本を閉じ、
顔をあげてみてみると――
そこにいたのは、
入学生という訳ではないだろう。
可能性はゼロではないが、
私のように簡単にサボる度胸のある人間が
早々いるとは思えないというのもあるが、
新入生特有の新鮮さというものを彼女には感じない。
制服もまた着慣れたものなのが見て取れたから、
間違いなく上級生という事になる。
それにしても、
髪を金に染めて煙草を吸いながら、
手馴れたようにこちらにきて、
私が居る事に驚いているのはいいが、
何も声が出ないほどに驚かなくてもいいと思う。
「――貴女もサボりなのかしら？」
とはいっても、
このままではらちがあかないので、
こちらから声をかけることにした。
すると、ばつの悪そうな表情を浮かべ、
頭をかきながら――
「――ああ、そうだよ。
　……
　っていうか……
　なんであんたのようなのが
　こんな所で堂々と入学式サボってんだよ……
　しかも、ピンポイントであたいのお気に入りの場所で……
　いや、まぁ、
　サボるには絶好の場所だけどよ。
　――で、見かけない顔だけど……」
思ったよりフレンドリーに話しかけて来た。
どうやら、
思わぬ遭遇と、
私がサボるような外見ではないこともあいまって、
困惑し、混乱してどうしたものか普通に接して来た。
更にいえば私が入学者だという事にも気づいてないらしい。
「入学式よりも、
　桜が綺麗だったからかしらね。
　まぁ、見かけないのは当たり前じゃない？
　だって入学者だもの。
　更にいえばここら辺が地元って訳でもないしね。
　むしろ顔見知りだっていわれるほうがびびるわね。」
「ああ、成る程。
　入学者だったか。
　そりゃあ、通りで見かけないって……
　ちょ、ちょっと！？」
なので、正直に答えてあげたら、
成る程と納得した顔をした後、
とたんに焦った表情を浮かべる。
――見た目からすると不良なのに、
思ったよりまともな反応なのにこちらがびっくりしたが、
もちろん表情には出さず、
微笑みを崩さず――
「あら、どうかしたのかしら？
　別に問題ないでしょう？」
「いやいや！？
　せめて入学した当日くらい真面目にしようぜ。
　あ、もしかして……
　入学式から抜け出す時に確か、
　新入生代表が連絡もつかないし来てないとか……
　結局他の代役立てるみたいな話でごたごたしてたから、
　抜け出すのは簡単だったんだけど……」
「ああ、それは間違いなく私ね。
　とはいっても……代表の件は断ったのだけど、
　やっぱり本気にしてなかったのね。
　適当な子捕まえて、
　後はよろしくね、
　っていうはずだった言葉の紙渡したから大丈夫なんだけど。」
「――用意周到っていうか、
　色々酷いな……！
　それでいいのか、アンタ……！」
「良いのよ。
　こうして私はまったりしてる訳だし。
　それにしても、中々見つからないものね。
　普通ここまで堂々としてたら見つかりそうなものだけど。」
「あたいでもそこまで酷い真似出来ない……
　というか優等生面して、優等生なのに、
　やってる事があたい以上に不良な気がするんだけど……
　いや、まぁ、
　話は分かりそうな奴だからいいんだけどさ……
　こうしてサボり仲間でもある訳だし。
　まぁ、いいや。
　ちなみに、
　あたいもなんでここにいると人に見つからないかは知らないよ。
　見つからないからこうして利用させてもらってはいるんだけど……
　しいていうなら、
　桜の御加護とかそういうのかもしれないね。」
桜の御加護、か。
彼女の口からいわれると、
非常に違和感を感じないではないが、
逆に言えば、
それをいわせるだけの何かが、
私がもたれかかっている桜にはあるのかもしれない。
桜がこんなにも美しいのは、
桜の下に死体が埋まっているから等といわれるが、
それほどまでに桜には幻想的で神秘的な様子が備わっているからだろう。
まぁ、もっとも……
この桜には……
いえ、これはいうだけ野暮な話、か。
まぁ、ともあれ、
不良であるらしいが、
こんな先輩がいるならば、
この学校の生活もそこそこ楽しいものにはなりそうだ。
普通の子からすれば、
怖く眼にうつるのかもしれないが、
なんというか、
怖いというよりは不器用だけど、
人には優しいタイプなように私には見える。
まぁ、恐らくその感想と感覚も間違ってはいないだろう。
と、すれば私のやることは一つ。
「似合わないわね。」
「……は？」
「桜の御加護だなんて。
　いえ。
　ごめんなさい。
　そんなにロマンチストな人間だなんて思ってもみなくて。
　失礼だったわよね。
　ええ。
　ロマンと大切よ。
　そうね。
　……私が読んでるの丁度恋愛小説だったんだけど、
　よかったら読むかしら？
　きっと好きよね？
　こういうの。」
「ちょ、ちょっと！
　な、なんでそんな話に！
　べ、別にロマンチストって訳でもないし、
　恋愛小説が好きって訳でも、
　あ、でも、ちょっと興味がないっていえば嘘にって、
　何をいわせるんだよ！
　そうじゃなくて、
　この桜には伝説があるんだよ、
　なんでもこの学校のある桜に近づくと神隠しにあうって。
　まぁ、そんな話信じてる人間なんてあんまりいないだろうけど、
　何故か、
　誰もこの桜に近づかないし、気づいてもいないんだよな。
　まぁ、偶然だと思うんだけど……
　ここまでくると桜の御加護としかいいようがねぇんだよ。
　まぁ、もしそれ以外にいいようがあるとしたら、
　よく分からんけど、あたいにとっては都合のいい場所だけど、
　それじゃ回答になってない気がしたからそういったんだけど……
　くそ、失敗したなぁ。」
「……で、貴女は神隠し怖くないの？」
「怖くないってば。
　１年くらいこの場所使ってるけど、
　何にもないしなぁ。
　都合がいいからサボりの場所として重宝してるくらいだし。
　むしろ、
　そんな話を聞いても何の反応もないあんたがなんなんだよ、
　って話だけど。」
「あら、貴女もそうじゃない、
　お互い様という奴よ。
　お互い様。」
「不良相手にそれをいう？」
「不良だとか、
　そうじゃないとか、
　私にはどうでもいい話だもの。
　関係ないわ。
　私は私よ。
　私の好きなように好きな相手と接するわ。
　不良というなら、
　貴女だって不良らしくないわよ？」
「は？
　いやいや、
　さすがにそれは……
　どうみても、
　どう考えても不良以外の何に見えるってんだよ。」
「なんだかんだで世話焼きのお姉さんかしら。
　面倒見いいほうでしょ。
　面倒くさいとかいいながらも、
　頼られると見捨てられない。
　かといって頼られてばっかりも嫌だから、
　人を遠ざける為に不良を装う。
　そうしているうちに、
　不良としてある事に落ち着いた感じかしらね。」
実際問題、
不良なのは確かなのだろうが、
粗暴な感じが彼女にはない。
ゆえに、不良かと聞かれても、
私からすれば否といった感じ。
世間一般からみれば十二分に不良であっても、
私にとっての不良というのは、
そもそも話が通じない相手である。
――まぁ、学生の不良がかわいらしいものにみえてるから、
その辺りの感覚が麻痺してるのではないか、
といわれれば、
その通りと答えるけど。
実際問題、
それ以上に怖いものや恐ろしいものをみていたら、
たとえ怖いものや恐ろしいものをみても、
その時と比べるとマシだと思えるものである。
怖いものは怖いし、
恐ろしいものは恐ろしいに違いは無くても、
そのハードルはもちろん跳ね上がるのは、
いたしかたない事なのは仕方ないと思う。
「そんなんじゃねーからって突っ込もうと思ったら、
　なんか気味悪いくらい見透かされてる気が……
　ほんとなんなんだアンタは……」
「なんなんだといわれても……
　そうねぇ……
　貴女からみて、
　私のことはどうみえるかしら？」
「あぁ？
　そうだなぁ。
　一見優等生で、実際優等生だけど、
　自分勝手でやりたい事やるタイプで、
　物腰が穏やかで落ち着いてて、
　あたいよりも上級生って感じがするわりに、
　こちらを弄んでくる……
　……こんなに少ない出会いと会話で、
　分かったこといっただけなのに、
　どういうことなんだよ……」
「……」
ニヤニヤとしつつ、
私の事をどう見えるかと聞いて、
真剣に今までの会話や、
見た感じから情報を整理しながら、
どんどんと頭を抱えていく様子を眺める。
ちなみに、
基本的に私は学校では猫をかぶる事が多い。
故に、
相手が誰であろうと、
基本的に自分から崩すというのはあまりしないのだが――
最初の出会いからして、
猫をかぶるのは流石に今更というか、
猫をかぶった所で私にはメリットがないので、
素で接してみたのだが、
思いのほか当たりを引いたようで何よりである。
「あー。うん。
　そうだな……
　あまり、深く考えたくないって結論に……」
「駄目よ。
　私は答えたのだもの。
　貴女も答える義務はあると思わないかしら？
　まぁ、思わなくても答えてもらうけど、ね。
　私に出会ったのが運のつきと思いなさいな。」
「分かってた……
　くそ、こうなったら力づくでとか思ったけど、
　うちの親父より隙がねぇし……
　ああ、もう。
　分かったよ。
　お前は食わせ者だよ、
　それも特級の。
　――であったのが運のつきっていうのも、
　納得するくらいのな。」
そして案の定、
答えも中々いい具合。
確かに私を表現するなら、
それがいい答えであるのは確かだろう。
それにしても……
「貴女の父親も貴女も武術のたしなみがあるのかしら？
　私が隙がないなんて中々分かることじゃないわよ？
　ある程度の実力があるはずだけど……
　……
　喧嘩に武術は使うなとかいわれない？」
「昔はいわれたけど……
　今は別に。
　どうせ親父はあたいの事なんてどうでもいいと思ってんだろうしね。
　出来た弟がいるし、
　見放されてんだよ。
　あたいは。
　しっかし、あんたも武術の使い手か。
　あたいに関しては空手だけど、
　あんたは何を使うんだい？」
「私は合気道ね。
　少々たしなんでる程度かしら。
　――それにしても、
　本当に見放されたのかしら、ね。
　少なくとも自分を見てほしいけど、
　見てくれないというのはありそうだけど、
　そのままぐれてたら、
　余計みてくれなくなるわよ。
　ま、喧嘩には貴女、なんだかんだで空手は使わないでしょう。
　相手が武術を使ってきた時を除いて。
　妙な所で律儀よねぇ。」
「いや、だからなんで見てきたようにいうんだよ！
　本当にあってるから怖ぇよ！
　――後、絶対少々じゃないだろ。
　親父から一本とれるだろ。
　全く……
　なんでこんな怖い後輩が居るんだよ……
　それはそうと、親父とあたいの事はどうでもいいんだよ。
　たとえそうだとしても、あたいにはこうするしか出来ないし。」
「まぁ、取れるかどうかは分からないわね。
　会ってみたいから今度あわせてね。
　それと、今度手合わせしましょ？
　約束ね。
　さて、そろそろ私は帰るわ。
　また明日。
　先輩。
　ああ、最後に名前を教えてくれないかしら。
　私は伊賦夜魅月よ。」
「また明日、か。
　あーもー。分かったよ。
　また明日。
　あたいは櫻井睦美。
　なんでこんなのと関わっちゃったかな、あたい。」
手を振って、
ぼやく睦美さんと別れる私。
ふふ、明日からも楽しみね。

もちろん朔位に頑張らせて連れ帰えらせるさ。こんな面白い存在になった和葛姫さんを放逐するなんてもったいないし。

暇だから道草食べてる。

苦かったらしい。

返答というより、自らに言い聞かせているかのようだ。

何かを決意したかのように言い放ち、改めて魅月のことを見据える。

小さく笑いながら、素早くその場から姿を消した。