『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.08.23:05、とある施設にて――


　電脳の世界。風が吹く。感覚に与える情報が流れていく。
リアリティを演出するための無駄な情報。会話するだけなら
映像や感覚を通じての演出などは要らない。人間というのは
何故に無駄な労力を消費し、疑似的な体験を好むのか。


　少女はディバイダーが敵だと知らない。
　この前に助けてもらった時も、敵の情報を把握しても、
それが誰かまでは把握していなかった。少女の未来を
読む能力は何でもかんでも見通せるものではないようだ。


　警戒が強くなる。ロボットは首を傾げた。
「……ウィル？　急にどうしたんだ？」
　脅威への警戒レベルが上がったのは、この場にいる
全員に知られただろう。
「お前がディバイダーか」
「ああ、成り行きからお嬢さんを助けたディバイダーだ」
　今ここで物理的に戦闘することは不可能だ。相手が
人間なら精神的に攻撃を仕掛けることは可能だろう。
この世界における攻撃手段は、相手に攻撃的な
プログラム等を送るか、相手側に高負荷をかける以外ない。
精神的に……それを通じて肉体(主に脳や視覚)にダメージを
与えることは出来るが、残念なことにそういった攻撃手段は
ない。そういったものは電脳の世界に精通した者でなければ、
ほぼ不可能だろう。
　やれるとしたら、高負荷をかけてやることだけ。相手が
電脳の世界から、現実に引き戻してやるか、媒介を高負荷で
落とすだけだ。旧世界で言う大容量なら兎も角、現代に
おいては桁も単位も異なる。賢いやり方とは言えないが、
現時点の攻撃方法は相手への高負荷をかけるのみだ。
しかし、高負荷をかける意味はない。相手を逃がすだけだ。
「ウィルさん？」
「お嬢さんとの接触で会えるだろうと思っていたが、
こんなに早く会えるとは思わなかったな」
「あ、あの……」
「お嬢さんを利用して済まない。俺は彼との接触を
待っていたんだ」
　少女がディバイダーに関して何処まで知っているのか
知らない。少女にとっては自分を助けてくれた恩人だろう。
だが。現在の軍にとって彼は人類の敵だ。
「お嬢さん、彼は危険人物だ。人類を滅ぼそうとしている」
　意味のない行動だが、少女を守るように少女とロボットの
間に入る。
「彼と接触してはいけない。何が目的か知らないが、
恐らく彼はお嬢さんの能力を狙って接触したのだろう」
　映像の中の俺は古風な拳銃を抜いた。