〜何時か何処かのある場所〜

*SIDE*オルタンシア

「オルタンシア！オルタンシアはおるか！」

魔王城の書斎で読書を嗜んで居ると、大声で自分を叫ぶ声がする。
…魔王様だ。
また、無理難題を言われるかと思うとちょっと頭が痛くなる。

「オルタンシアーーー！どこじゃーーー！出て来ないと泣くぞ！」

「はいはいはいはいはい、なんですか？魔王様。」

観念して書斎から出ると、最早泣きべそ寸前だった魔王様の顔がぱぁっと笑顔になる。

「おお、ここにおったのかオルタンシア！聞いてくれ！やって欲しい事があるのじゃ！」

「はいはいはいはいはいはいはい、魔王様のご用命とあればなんなりと？」

投げやりに返すと、ちょっと拗ねたように魔王様が口をとがらせる。

「なんじゃなんじゃ、もうちょっとやる気やら敬いやらを見せてもいいんじゃないのか？魔王じゃぞ？えらいんじゃぞ？」

あまり拗ねさせて疳癪で何処かの国を滅ぼされても後処理が面倒だし…。
そっとぶーたれている魔王様の頭を撫でる。

「すいません、わかりました。改めて、どうなされたんですか？」

「おお！よくぞ聞いてくれた！オルタンシア！」

何時も割と無理難題を言われてはいたけれども。

「犬！我は犬になってみたいぞ！」

…こんなわけのわからない難題は初めてだった。







現在〜次元の狭間〜


*SIDE*レイヤ

「ごきげんよう。お初にお目にかかります。…久方ぶりですね、マグノリア。」

人懐っこそうに笑って挨拶をする女。

マグノリアがオリフィア様…と呟いていたが、どうやら本人らしい。


「貴様が、兵庫の魂を抜きとった張本人か？」

「抜き取っただなんて…私の目的の為にお連れしただけです、此処へ。」

「嘘…嘘ですよね、オリフィア様…嘘です！」


マグノリアが悲鳴のような声を上げようとするのを制する。
さらに横では飛びかかろうとしている道産子をセツカが制している。

「一応、理由ぐらいは聞いてやろう。ありがたく思え。」

「まぁ、紳士様でいらっしゃるのですね、ありがとうございます。…皆様はこんな物語をご存知ですか？」


オリフィアが語った物語。

それは、ジェイド王国に語り継がれている「紫の魔女と魔王の物語」の真実。

植物にされ、そして目覚めた王女の今までの物語。

マグノリアを経由して、こちらの居場所を特定し、行動も全て筒抜けだった事実。

「そんな…」

「本当です、マグノリア。貴方の出生を知っていて私は貴方を利用したの。貴方は私の手駒のひとつ。」

マグノリアがオリフィアの話を聞いてショックで固まっているのをサクラが慰めている。

…今は、マグノリアはサクラに任せる事にする。

「で、お前の話はわかったが、兵庫の魂をどうするのか、をまだ聞いていないんだが？」

上手く話をずらされたが、本題はこちらだ。

「…レイヤ様、もし貴方の大切なものが…自身の所為で失くなってしまったら、どういたしますか？私はね、取り戻したいのです。私の運命に巻き込まれ失った命のその輝きを。ですが…魔の王を内包していても…ちからが足りないのです。ですから宝塚灘様のおちからを拝借させて頂こうかと思いまして。」

「兵庫の魂を吸収してちからを増幅させようとしている訳か。」

「…兵庫さんだけじゃない…ずっとここに来てから感じていたが、この波長は…フィーも！」

セツカの呟きに、オリフィアが少し反応したが、それも一瞬のこと。

「でも、それには魂を馴染ませる為に少し時間が必要なのです。だから、邪魔をしないでもらえると助かります。」

「貴様が何をしても、過去は変わらんぞ。正確には、多少は変わるかも知れんが大元は変わらん。」

そう、今ここには居ないが、アホ毛がそれを証明している。

深雪は、サクラを救う為に過去に遡ってウルドになった。
だが、結局サクラは深雪を庇って重傷を負っているのだ。

何処かで小さな差異は出てくるかもしれないが、どんな歴史も大元自体は変わらないのだ。

「過去の大元は変わらない…そう考えた時、貴方だったら諦めがつくというお話でしょうか？申し訳ございません、私は諦められないのです。」

オリフィアの周りに黒い霧の様なものが現れ…そして黒い霧から無数の人影が現れる。

ユカラやセツカが息を飲むのが変わった。
そう…あれは、昔、ユカラを襲っていた魔法生物だ。

「折角親切なご忠告を頂きましたのに、応えられず残念です。」

未だに人懐っこい笑みを浮かべているオリフィアのその一言で、その人の形をした黒い物たちが動きだした。