(※最近のお話ですが、
　 番外編じみた所があります。
　 本編はそのうちそのうち続きを書きたい。
　 筆者風邪の為、簡易的なものになります)

――刀を抜き呼吸を整える。
刀について素人の私がいくら呼気を整え、
刀を振るおうと、
それは、自分からみてすら無様なもの。
一応、重心はしっかりしているし、
剣を振るうのにブレはない。
――柔術を学び、鍛え、
刀を使わぬ武術を学んだお陰で、
基礎の基礎はそれなりに出来ているお陰だろう。
だが、それだけ。
師もなく剣道すらろくにやっていない私が
いくら刀をふっても上達は見込めない。
もし、上達した所で、
変な癖がついて使いこなせるとはとてもいえない代物になるだろう。
ならば師について学ぶか、
といえば否である。
良い師というものにそう上手くあえるものではないし、
私はそこまで熱心に刀を極めるタイプではないからである。
だが――
それでも、刀を扱い極めていくならば、
体に覚えこませてしまえばいい。
それも短い時間で。
無論、普通ならばしそんな事は不可能だろう。
刀に対する才覚と、
たゆまぬ努力があればあるいは可能かもしれない。
片方だけでもすばぬけたものがあるか時間があるかすれば、
望む場所に届くのだろうが、
生憎と私にはどちらもない。
だが――
そんな私の身の丈にあわぬ美しき刀身を妖しく光らせる刀。
教えてもらった露店でいただいたもので、
詳しいことは聞いていないが、
態々悪い曰くのある刀といって出してきたもの。
来歴かそれが真実であるかは関係なく、
そうであるとされて、
私の手に馴染む時点で、
それはただの刀足りえない。
依り代として十分な代物となる。
そこに宿るは様々な悪しき感情、魂――
そして、それに引かれた魑魅魍魎共。
それも刀にまつわるものたちの。
故に、この刀は様々な不幸を呼び込み、
生み出して行く。
並の人間であれば、あっという間に、
たとえ達人であろうとも耐え切れずに押しつぶされる。
使えるもののいない刀。
まさしく妖刀とはこの事をいうのだろう。
だが――
静かに精神を集中させた私は、
わざと己の中へと刀に宿るもの達を己へとひきいれる。
体を求めてやまぬもの達に体を明け渡せば、
即座に体をのっとられて、
自分が死ぬようなものだが、
何のことはない。
――私にとってのそれは慣れたもの。
制御して己の支配下へとおいていく。
必要なのは剣の達人が繰り出す攻撃、技。
それを己の体と魂へと刻み込む。
自由を奪って繰り出させる技、
それは本来の彼等の力には及ばないものの、
攻撃と技を己に刻み込むだけなら問題ない。
その先に行く為に必要なのは、
己の研鑽により、
己だけのものとする事なのだから必要はない。
とはいえ――
「――この刀と私の相性が良すぎるのよねぇ。」
相性が良すぎるゆえに、
呼び寄せる霊が多すぎて、
どの霊の技から己に馴染ませていくのか迷ってしまう。
なるべく強く上手な霊からと思うのだが、
それですら同じくらいのが複数いる。
「贅沢な悩みとはこの事ね。」
さて、どうしたものかと頭を悩ませていると――
「あれ？
　魅月さん刀なんてもってどうしたの？
　確か武器使わないよね？
　なんでまた武器使おうと……」
「そうねぇ。実験かしら。
　刀を使えるように。
　刀を選んだのは単なる趣味ね。」
「実験かぁ、でも趣味ねぇ……」
「鞭の方が似合うといいたけどね？」
「うん。
　……あ。」
通りがかったのは私の仲間であるアルネスさん。
この正直ものめ。
まさかこんな簡単な誘導尋問にあっさり引っかかる辺り、
相変わらずと思うと同時にほっとする。
そして、
折角の失言なのだから、
これをつつかない手はない。
私はにっこりと笑みを浮かべ――
「――あら、正直ね。
　正直な子は嫌いじゃないし、
　正直に話した人には……
　しかるべき褒章があってもいいわね。」
「そ、そうだよ、魅月さん、
　正直に話したからその褒賞として、
　許して何もしないっていうのはどうかな！ね？
　いいんじゃないかな……！」
「え、そんな駄目よ。
　正直者には御褒美を。
　何も渡さないなんてあったら正直者に失礼じゃないかしら。」
「……えっと御褒美だけですよね？」
「そうね。
　御褒美だけのつもりよ。」
「じゃ、あ……いいかなー。
　うん。
　あれだ、罰じゃないから大丈夫なはず。
　うん。
　正直で助かったなー。」
静かに全然怒ってないよ。
寧ろ機嫌が良い風を装う。
その言葉と態度に、
最初は警戒していたものの、
いまや完全に警戒を解いて胸をなでおろしている。
思ったとおり、
にやけそうになるのをこらえて、
微笑を浮かべてそっとアルネスさんに告げる。
「しっかり受け取ってくれるわよね？」
「え、うん。
　御褒美ならもらうよ。
　折角だし、嬉しいしね。」
そして言質をしっかりとった所でネタばらし。
いつも思うのだけど、
こうやって積み上げて、
ネタばらしをする瞬間は最高だと思う。
いつだって楽しい。
上手くいっている証でもあり、
もし失敗したとしても、
相手の反応をみるのが楽しい。
「分かったわ。
　それじゃ、
　アルネスさんは後で鞭打ち十回ね。
　嬉しいでしょ。」
「わーい、嬉しくないなぁそれぇ！？
　あるぇ。
　なんでそれが御褒美なのかな！？
　それって完全に罰ゲームだよね！
　どう考えても御褒美じゃないよね？」
「え、御褒美じゃない。
　鞭が似合う美少女に鞭で打たれるなんて、
　ドエムの人にはたまらない御褒美よ。
　だから大丈夫。」
「いっとくけど、私別にエムって訳じゃないからね！
　それに女の子、
　私女の子だから！
　男の子じゃないから。」
「え、でも、
　女性同士もありえるから大丈夫よ。」
「ノゥ！
　私ノーマルだから！
　ドノーマルだから！」
「そう。残念ね。」
「いや、残念でもないからね！？」
「まぁ、鞭打ちは確定として、
　そういう訳で刀を振るっているのよ。
　刀を振るわないと刀を使えるようにはならないでしょう？」
「あ、それは確定なんだ。
　まぁ、それはそうなんだけど、
　実験って何の実験？
　刀を使えるようにしてるのは分かるんだけど、
　どういう実験なのかさっぱりなんだけど。」
鞭打ちについてはあきらめたらしく、
遠い目をして話題を切り替えるアルネスさん。
やはり、私が武器を握るというのは大きな違和感があるらしく、
興味を引いたようだ。
「霊を宿して扱うことで習熟を己のものとする実験かしらね。」
「って事は……」
「そうね。
　これが成功すれば技量を一気に伸ばすことができるわね。
　超一流といかずとも、
　一流の技くらいは出来るようになるはずよ。」
「なんていうかいいなぁ。
　私もそれくらい早く熟練してみたいなぁ。
　たまには違う武器使いたいって思うことあるし。
　不器用だからこれ以外脳ないんだけどさ。」
「まぁ、アルネスさんの場合はそのままそれを極めた方がいいと思うわよ。
　私のやる方法は普通の人が出来る方法でもないし、
　この方法を使ってもアルネスさんの強さにたどり着けるとは思えないもの」
「そんなものなのかなぁ。」
「そんなものよ。
　一つに打ち込みつづけた人間には勝てないわ。
　ま、最も……
　貴女が振るうのをやめたら、
　遠慮なくおいていくけど。」
「あ、あはは……
　これからも頑張るよ。うん。
　それにしても、
　私も刀振ってみたいなぁ。
　一回振らせてもらってもいい？」
「ああ、そうねぇ。
　駄目よ。」
「え、本当にってあるぇ、断られた？
　ちょっとくらいいいんじゃないかと思うんだけど……」
「……これ妖刀の一種だから、
　思考乗っ取られるわよ？
　私の場合日常茶飯事だから意味ないけど。
　よほどのことがない限りは。
　貴女の場合そういったものに対する抵抗ないでしょ。」
「……もしかして、
　知らずに私がこれ拾って抜いたりしてたら？」
「ええ、乗っ取られて誰かを斬りたくてしょうがなくなるでしょうね。
　正気に戻すことはできると思うけど、
　そんな風になりたい？」
「なりたくないです、はい。
　――しかし魅月さん、
　なんでそんな物騒な刀を――」
どうして、そんな物騒な刀を使うのか。
当然の疑問だろう。
普通の人ならば絶対に使わないし、
いくら大丈夫とはいっても、
危険性はゼロではない。
好んで使うようなものではないだろう。
「つまり、それだけの念や霊がこもっている。
　そして、それだけの技術をもったものが扱ってきた証。
　ならば私が使うにふさわしいわ。
　この実験にはそういったものが欠かせない。
　その技を経験を根こそぎ私のものにする実験なのだもの。」
「……なんていうか妖刀とかより、
　魅月さんが魔王っぽいのはよく分かったよ。」
「……」
「……今のなしでお願いしても？」
「出来ると思って？」
「デスヨネー。」
アルネスさん今回二度目の失言である。
さて、
どうしようかしら。
流石にこれも無視するわけにはいかないよねぇ。
ニヤニヤしていると、
流石にアルネスさんも私の考えていることを察しているらしく、
「ねぇ。魅月さん。」
「何かしら？」
「罰ゲームなしでお願いできない？」
「出来ると思って？
　そうね。
　まぁ、でも軽いのにしてあげるわよ。」
「それなら良かった……のかなぁ？」
「私の慈悲深さに
　むせび泣くといいわ。」
「アッハイ。
　で、実際私は何をされるのでしょうか？」
「まぁ、私の肩でももんでもらおうかしら？
　あ、力入れすぎたらペナルティあるわよ。」
「……」
「……」
「ぺ、ペナルティはともかく、
　魅月さん肩こったっけ？」
「刀振った後はやっぱり疲れるから、
　そういうマッサージが欲しくなるのよ。
　ちなみに鞭打ちはまた今度ね。」
「仕方ない、はいはい、
　分かりましたよ。どちらも。
　くっ……なぜこんなことに。」
「いや、明らかに自分の責任でしょうに。
　あんなミス普通は犯さないわよ。」
「うぐぐ……」
「むしろ気を張り詰めすぎなんじゃないかしら？
　もう少しリラックスしたほうがいいわよ？」
「へ？え、でも……
　気を張り詰めてたほうがミスは少ないんじゃ……」
「適度な緊張とリラックス。
　どちらも度が過ぎれば毒になるわ。
　貴女の場合は緊張へ偏りすぎなのよ。」
「へぇ。
　そうだったのかぁ……
　うん、きっちり休むよ。」
「そうしなさいな。」
それにしても、
失言は多くからかい甲斐があるのはいいが、
アルネスさんの場合、
非常に素直な性格の為か、
気負いすぎたり、
何事も真面目さが裏目に出る事が多い。
このままでいて欲しいと思う反面、
このままだといつか潰れてしまいそうではらはらする。
まぁ、なんだかんだで緩くもあるので、
大丈夫だとは思うのだが……
全く、これほどいつも私に心配をかけるなんて、ね。
救われてる部分の方が大きいからいいけど、
そうでなかったなら私はきっと彼女を遠ざけていただろう。
やれやれとため息をつく私に、
ちらちらと私をみながら、
「で、実際の所、
　今どれくらい扱えるようになったの？
　かなりの線いってる？」
「そうね――」
どれくらい上手くいってくるのか聞いてくるアルネスさんに、
私は言葉で返さず、
すばやく刀を抜いてアルネスさんへと斬りかかる。
「わっ……と！」
それに反応してよけながら斧を振り下ろすアルネスさんへと、
刀で斧をいなし、
二度、三度刀をすばやく振るう。
それでも軽くアルネスさんがよけるのは流石アルネスさんというべきだろう。
まだまだ未熟とはいえ、
避けて戦うタイプではないというのに、
そこそこの速さで繰り出した攻撃を
これほど軽やかに避けて見せるのだから。
「ざっとこんな所ね。」
「ちょ、あたったらどうするの？
　うん、
　まだまだ避けれるレベルでよかったけどさ。
　でも、確かに一丁前に使えてる感じはするね。
　上をみるときりはないけどさ。」
「ええ。
　刀を扱ってまだ数日でこのレベルにまで到達できるわ。
　中々大したものだと思わない？」
「確かに。
　魅月さんが実験の成功をどこにおいてるかはわからないけど、
　十分な成果なんじゃないかなぁ。
　うぅん。私もうかうかしてられないや。」
「あら、休むといった矢先に頑張ってどうするのかしら？
　それと肩もみよろしくね？
　きっちりこなしてもらわないといけないわ。
　どちらも。」
「うぐぅ。
　わ、忘れてないよ、
　うん。
　きっちり休んでゆっくり休めたら頑張るんだ。」
「そうそう。それでいいの。
　――
　ま、私自身が強くなる必要はないのだけどね。
　暇をもてあましすぎなのよ、最近。」
「まぁ、魅月さんもきっと疲れてるんだよ。
　よし、肩もみ頑張ろう」
こんな私にどこまで優しいのか。
ありがたい事だけどね。本当に。

大きかろうが小さかろうが、携帯画面じゃ変わらん。

それはそれとして。
葛築の事を背後はすっかり忘れてたよ。魅月さんの水着に夢中で。
多分、リゾートの前後に香炉のまま当主の元へ送ったんだろう。うん、きっとそうだ。背後はうっかりしても朔位さんはうっかりしないもんな。