（アールが臆病だと思うのは
…
君がアールに何か、期待しているからじゃないのか？）

…チセ？
それは、どう…

…。

…
俺は…俺は、自由じゃない。
ずっと…

チセ

聞いてほしい。

俺はずっと奴隷だった。ウィミノイウェーブっていう地方で…人畜っていうやつでさ。
産まれてからずっと、誰かに縛られて生きる人生だったんだ。
物を持っていない、というより　俺自身が物で、誰かに所有される人生だった。

今も自分が『人』なのか？『物』なのか？自信がない…
どれほど故郷からはなれても、逃げられない…気を抜くとまとわりついて、思い出されるんだ。
今も自分が気づいてないだけで顔に描いてあって、周りから見たらバレバレなんじゃないかって思うことがある。
1001PS――自分が競売にかけられた時の値段がさ。君の瞳にも値札が映ってるんじゃないかと思ってたまらなく恥ずかしくなる…

『自由』になることの最低条件ってさ、まず『自分』があるかどうかだと思うんだよ。
チセには、自分がある？自分が何者で、自分に譲れない物とか、ある？
俺は…俺はそれを、すっかり、奪われたような、失ったような気がしてる。

奴隷で居た時、俺は全く自分が『自分をうしなっている』ってことに気がつかなかった。
俺はアールにナイフを向けたこともある。
そういう命令だから、アールを殺して金を奪おうと思った。
そういう命令で、それが当たり前で、自分の役割で……本当にそう思ってた。

こんなのは…君には隠したかった。
はずかしいはなし、もっとかっこつけてたかったけど…

本当はさ…
誰かのそばに居ないと、
誰か、誰も俺を支配しようとしない人の傍にいないと、いつまた犬になるかと思うと
怖いんだ……チセ

何か譲れない物が欲しい。俺もまだ、自分の意思を完全に奪われつくしてはないと信じたい。
それは君じゃなくてもいいのかもしれない。
悔しさとか怖さとかさ。俺の好きは純粋じゃない。

でも命令されて君を好きになったわけじゃない。

ここで引き下がったら…おなじだ。また何も持ってないままだ。
何もないままの垂れ死んで、
1001PSの奴隷だったって、俺に値段をつけた奴らが正しかったで終わらせられないんだ。
だから君を手に入れたい。だからアールに勝ちたい。

俺のことを好きじゃなくてもいい。
アールのことが好きでも――ほかの誰かに心ゆらいでも。
君が俺に何か――生きる強さや、希望を感じてくれるなら、
それを感じられなくなる日まででいい。
一揆が終わったら、ほかの全てを置いて、俺と一緒に暮らしてみてくれないか？

君が決めなくていい。君はうっかり、少しの間だけ、人攫いの被害にあうだけ。
俺との暮らしがいやになったら、だれにも言わずに、とらわれた先から逃げ出てきたふりをして、家族なりなんなりの元に帰ればいい。

よし！張り切っていこーぜっ！！！

…よかった。怪我してないか？

よかった…

よし！どんどん行こうぜ！

さぁ、行きましょう？

なんだ？これ

わぁぁぁぁ何でしょう何でしょう。

Ｚｚｚ...