だだっ広い廊下を、緩慢に歩きながら見回している。

直近の「頼った」出来事を笑いながら挙げてみる。
くすくすと、笑いの気配を消さぬまま、

ぽんぽん、と彼の背を撫でるように軽く叩く。
そうしながら、彼から返る言葉にとうとうこらえきれなくなったように笑った。

何気ない彼の言葉に、思わず瞬き、その顔を見上げて。
その意味を理解するにつれ、みるみる頬に紅がさし、顔がほころんでいく。

少し前なら、この世界でも可能だったのだろうけど。
今を思えば、それはずいぶん昔のような気もする。
……とはいえ、今だってずいぶんと気まぐれにあちこち歩いているのだけれど。

小さく首を傾いでこちらを見やる彼の赤に、ええとね、ともう少しだけ、言葉を継いだ。

やたらと背筋を伸ばして胸を張る。あひるの下半身まで胸を張り、結果的に視線の位置が高くなるのは、むしろ虚勢ゆえかもしれない。
が、老人たちの夢物語のようにも思う、村のおとぎ噺に真剣に耳を傾ける彼の表情に、
しおしおと背筋は戻り、それに伴い目線はまた元の低さに。
絵空事ではなく、実際にあった話かも、と口にする彼に、きょとんとした顔で首を傾げてしまう。
が、ふと懐かしそうに、そしてくすぐったそうに目を細めた。

その表情は、やはり実際の話とはまだ信じがたい、といわんばかりの。
だが、首を捻りながらも彼を見上げて。

彼の悲観をたしなめるふりをしつつも、結局はその冗談に乗って、内緒、と肩を揺らす。
一揆にふさわしくないのんびりとしたやり取りと足取りで、けれども確かに近づいてきた王城。
ため息にも似た声音に、ええ、と低くうなずいた。

ふつ、と途切れる声は、己の問いかけが故と悟れば心配事はいったん脇に置き、悪戯っぽい顔になる。
答えを待つ間、ことさらに気取ったしぐさで羽根を広げ、ゆっくりと羽繕いをしてみせたり。
そうして返ってきた言葉には、満足げににっこりと笑った。

そして、彼のマントをくいくいと引き、耳を拝借しようと。
かなえば、唇を寄せ、声をひそめて。

……おおっぴらにお酒をたしなむには、まだ少し早そうだ。

歌うように呟いて、羽根ペンを持った右手を伸べる。
羽根ペンに宿った光のひとつが飛び出して、くるくると回り始めた。

ひとつ、ふたつ、みっつ。
回るたび、辺りの温度が下がっていく。
吐く息が白くなる。ちらちらと、白いものが落ちてくる。
星まで凍らせるような冷たい風が、サッと下から上へと吹き上げた。
目を開けると、いつから立っていたのだろう。
そこには、白い肌、赤い反物を携えた女がいた。