輝きを放つネクターを、一輪、手折り、いくらかは常に携行する……農場でも奪われることのなかった……紙に巻く。荷の奥では保たないだろうが、運べなくはない。力を求めて摘んだわけではなかった。天蓋庭園に花咲くそれらの見慣れたはずの植物が宿す奇妙な輝きには言い知れない不吉さがあった。元来エンブリオに力を与えるネクターは尋常の植物ではない。物理的に意味の通らない現象にも無理はない。ただその、物理的でないとするなら霊的な意味は探り当てておく必要があった。なにかに感応しているのか。なにかに変質しようとしているのか。ネクターはなにであろうとしているのか。闇に毒されたノールの花々のように、ネクターもまたなにか別様の花になろうとしているのか……

私たちのねぐらにする荘園にかつて咲き誇った霊草たちはいまや面影なくノールとして揺れる。ネクターにそうした霊的な変容が……仮にメルンテーゼを包むかの大規模で起こるなら、それは疑いなく世界の破滅だった。旧い荘園主の家が、なめらかに没落し、いまやその姿を過去の中にしか持たないのと同じように。

傍らを行くヤールの姿が、どこか暗く見つめがたい。輝くネクターの中で、落とされた影のように。フィガロの華やかな美しさも、あの農場以来、どこか陰影を加えたようにも見える。……私は？
敗北は私のなにかを変えただろうか？
変わらないのだとしたら、それは、敗北が私の常態だったがためだろうか？
そのたびごとに生まれては消えてゆく一瞬で、選び損なわれて落ちていく可能態の一様、勝利すると同時に剥離していくひとつの敗北、それへ、どこか自己同化しながら、夢のうちに、私も常に落ち続けていたがためだったろうか？……