息が苦しい。ここは竜が住む山なのだという。

まだ明るい空に薄く見える月のあたりはどれだけ空気が薄いのだろうと考える。考え、足を繰り出す。聖女の手を取る。
私はかつて彼女の世話をするにあたって、感じていなかった「ここに人が居る」という感覚をなんとはなしに気づいた。
いつからだろうか。

普段我々が呼吸をして取り入れている空気は濃く重い空気で、ここはそれが薄く軽いのだと言う。息を上げなければ常態のそのサイクルを維持することは出来ない。人は星や月を見上げる生き物である。そういった問題を解消して星や月を手にしたいと考える者もいるだろうか。
私はいつからか視界を遮っていた霧であったもの、足元に広がる雲間を、足を休めるふりをして空を一蹴りする。

聖女は首を傾げて微笑んでいた。