*SIDE*レイヤ・センドウ

今、部屋は重苦しい空気が漂っている。

何時も騒がしい道産子が死にそうな顔で、何時も騒がしいが今は息をせず、心臓も動いていない兵庫を抱えて来たのが１０数分前。

そして、俺様は今、その兵庫がどういう状態なのか看ている。


「俺が…！俺が兵庫から離れたりせんかったら！」


「カムイさん、落ち着いてください！今、レイヤ先生が見てくれていますから！き、きっと大丈夫です！」

延々と床に拳を打ちつけ続けている道産子をなんとかサクラが止めようとしているようだ。
ユカラは静観し、マグノリアはおろおろしている。

…今、セツカが道産子を抑えて、なんとかうるさい音は止まったので俺様も精神を集中する。

「ふむ…。」

「レイヤ先生！どうなんです！？兵庫はどないなっとんです！？」

全員が固唾を飲んで見守る中、俺様は口を開いた。

「単等直入に言うと、息はしていないし心臓は止まっているがまだ死んでいるわけではない。」

「…どういうことですか？」

セツカが眉を寄せて質問してきた。
まあ、わからんだろうな。

「魂が抜かれているのだ。何者かにな。だから、身体が機能していない。平たく言うと、それを身体に戻せばまた生き返る。」

それを聞いて、露骨に安心した顔を見せる道産子。
だが、事はそう簡単ではない。

「…ちょっと待ってください、レイヤ先生。今、抜かれたって言いましたか？何かの拍子や間違いで抜けた、ではなく。」

サクラがそこに気付いたようだ。
セツカと道産子の表情も険しくなる。
ユカラは静観している。
マグノリアはおろおろしている。

「そうだ、そして、この残った魔力の気配を俺様は知っている。」

１度目はある遺跡で。

２度目はユカラを救った時に。

そして３度目はサクラとの遊園地で…感じたことのある魔力。

３度目の時に渾身の封印術で封印したはずだが…あれを抜けだしたとすると、相当厄介な相手だ。

「ほな、さっさとそいつから兵庫の魂を取り返しに行きましょ！」

「慌てるな、確かに相手は知っているが場所を知っているとは言っていない。…だが、追う事はできる。」

何度も感じたことのある魔力だ、錬金術で作ったアイテムでなら追う事はできる。

「…危険な相手だ、ユカラとマグノリアはここに残って…」

「兄上が行くなら僕も行く。危険ならなおさら。」

「わ、私も行きます！」

ユカラは絶対に着いて行く、と決意に満ちた表情でこちらを見ている。
マグノリアは半分流されている気がしないでもないが…。

「そ、それならレイヤ先生も残ればいいんじゃないでしょうか？」

サクラがそう提案してきた。

「…俺様がいなくてどうやって追尾するんだ。」

「た、確かに…で、でも。」

…もしかすると、俺様の身体が限界な事にサクラは気付いているのかもしれない。

「危険なのは間違いないが、説得する時間も惜しい。魂は抜けてから半日以内には戻さないと、完全に身体の方が死んでしまう。正直、時間があまりあるとは言えん。…そういえば、少しでも戦力が欲しい時にあのアホ毛はいないのか？」

「ウルドならノウァさんに呼ばれたとかで出かけてますけど…」

使えないアホ毛だ…まあ、いい。

「時間がない。各時、１０分以内に装備を整えてここに再集合だ。急げ。」


未だ心配そうにこっちを見ながら準備をしているサクラに気付かないふりをして、魔法陣の準備を進める。


…もしかすると、今年のクリスマスも危ういかもしれんが、…兵庫はともかく、またユカラやマグノリア…サクラに危害が及ぶかもしれん相手だ。


ほっておくわけにはいかん。

　多頭の蛇に腕をかじりつかれるのも意に介さず、
　間を置いて蛇を一頭一頭ちぎり捨てている仮面の者の姿がある。