(※あいも変わらず本編とはあまり関係ありません。
　 前回の続きとなっております。
　 前回自体続きなのでそれ以前の日記の方もどうぞ。
　 良ければ過去の日記とあわせてお読みください。)

夜の王宮を駆ける。
衛兵などに見つからないように、
魅月の指示を聞きながら。
上手い事見回りを掻い潜るように移動できるのはいいのだが……
「なぁ、見回りの情報どうやって手に入れたんだ。」
「情報収集は得意なの。
　これくらい容易くやってみせなきゃ、
　得意とはいえないでしょ？」
「いやいや、
　流石にこの国の王とかも、
　他の伝でも、
　見回りの情報を詳細に手に入れられないと思うんだが。」
「あら？
　どうしてそう思うのかしら？
　必要だから情報を得るのは大切、
　何も、問題はないわね。」
「いやいや、かといって……
　暗殺の可能性がある情報を、
　誰かに横流しとか普通はしないだろう。
　それに……
　不慮の事故とかも……」
「ないわね。
　私に限ってはありえない。
　対象は……
　執務室ね。
　――明日に向けての準備を着々とかしら。
　トップを瓦解させて、
　証拠を王様の所に投げ込めば、
　見事ジ・エンド。
　傍にいるのは精々腕利きが３……
　いえ、４名って処かしら。」
「ジ・エンド……
　そう上手くいくのかね？
　そうなったとしても――」
「大丈夫じゃないかしら。
　私達が潰した連中が薬に犯された国民を使った大規模な陽動、
　騎士団を出撃させた所で、
　兵力のない此処を少数の貴族の軍で叩く。
　もし何かあった場合は、
　最後の砦たる――大臣が作戦の変更、
　中止を連絡して臨機応変に立ち回る。
　そんな筋書きなのだけど。
　流石に、その指示出す人間がおらず、
　起こるはずの陽動も起こらない、
　ともなると、
　動揺するわね。
　いくら賢しくても隙は生まれる。
　万全に用意された此方側と、
　浮き足たった連中相手が勝てるわけがないわ。
　ま、それに、
　賢しい人ならすぐに行動するかもしないけど、
　それは前に進むのではなく、
　後退であり降伏よ。
　証拠は抑えているのだし、
　後はゆっくりと潰すなりすればいい。
　そして貴方ははれて救国の英雄。
　箔がつくわよ。
　まぁ、余計なものも色々ついてくるでしょうけど。」
「なんていうか、
　縁のない話というか……
　偉くなったものといえばいいのか――
　……ま、それでも俺の気持ちは変わらない。
　まぁ、俺の答えはもう決まっている。
　が、
　それもこれも、
　これからだろう？
　負けるとは思わないが、
　何が起こるか分からないのが戦場だ。」
「え？
　貴方が負けて死んでもよ。
　私の身代わりに栄誉を一身に受けなさい。
　ま、晴れやかな戦場というわけじゃないけど、
　こんな大きな戦いなんて、
　二度とないでしょうから、
　その考えもう一度考え直してみたら？
　あ、
　ちなみに私は単なる協力者としてお金と通行許可に関する件以外、
　全く興味がないわ。
　この国出て次に行く。
　元々旅人というか、
　一所に腰を落ち着ける予定はないしね。」
「ああ、くそ、
　その後全部片付けて、
　相手と刺し違えた事にでもするつもりか。
　――ま、確かに……
　華々しい戦場とは違うが、
　これほど大きい戦いなんて２度あることではないな。
　もう一度考え直してみるか。」
――正直な所、
箔がついた事をよしとして、
その名を元に傭兵を続けるつもりだったのだが、
箔がついてしまう事で、
つまらない死に方だけはしたくないだとか考えてしまう事は否めないし、
まぁ、今から考えるのは取らぬ狸の皮算用だとしても、
場合によっては別の道も考える必要はあるかもしれない。
だが――
俺はただ闘っただけなのに比べて、
お膳立てや全ては彼女の仕業だ。
それは隠しようがないし、
俺と行動している為、
いくら隠そうとも俺に全部擦り付けるのは難しいと思うのだが……
俺自体、
全ての手柄を自分のものにするつもりはない。
護衛を引き受けて、
必要な戦いで暴れまわっただけともいえるのだから。
そして、
懸念材料はまだある。
――今のうちに聞いてみるか？
「――なぁ、いくらなんでも、
　全てを俺に押し付けるとか無理だと思うんだが。
　俺は素直に全部喋るし、
　それに――
　大臣をどうにかして、
　それを理由に投獄とかの可能性はあるんじゃないか？
　どうにかするってそれは――」
「自裁させるわ。」
「はぁ？」
「自裁させるの。」
「いやいや待て待て。
　そう素直に自裁するものか？
　剣で脅してって手段は使えなくもないが、
　それで折れるとは限らないし、
　それに、
　――都合よく動く所か、
　脅した剣に自ら刺さって、
　殺したように見せかけることだって……」
「ああ、
　その点は心配いらないわ。
　その件については私が上手くやるし、
　貴方は護衛を手早く片付ける事を考えて。
　時間をかけると感づかれる可能性がある。
　とはいっても、
　１時間かそこらなら大丈夫なタイミングを計って、
　状況は私が整える。
　私の合図で踏み込めば良いわ。
　もう一つの件については……
　まぁ、素直に喋っても、
　私が適当に取引するから大丈夫。
　いい。
　流石に大臣の護衛とだけあって、
　相手は強力よ。
　私兵だからどんな輩を雇っているか分からない。
　踏み込んで即座に制圧なさい。
　多少は援護するけど、
　私はそういう戦いはあまり得意じゃない。
　――期待はできないという事よ。
　いいわね？」
「元より其処までしてもらうつもりはない。
　護衛として命に代えても相手は叩き潰すさ。
　手段も選ぶ積もりは、ない。
　――傭兵流儀の戦い方で勝つさ。
　ま、終わった後の事は終わってからゆっくり考えよう。」
「ふふ。期待してるわ。
　さて、と。
　そろそろね。
　暫く黙るわ。突入する時は扉を指差すからよろしくね。」
そういって黙り込む嬢ちゃんにあわせて、
俺も黙り込んだ。
やがて、
大きな扉が見えたところで嬢ちゃんは静かに時を待ち始める。
静寂の時が流れる。
実際には然程時間たっていないとは思うのだが、
こうして静かに待っている時間というものは、
１分２分が、
１時間２時間にも感じられる。
まだか、まだかと焦る心を押さえ込み、
息を整え、頭をクリアにしていく。
敵の姿は見えない。
だからこそ、イメージする。
敵の数は４人に大臣が１人。
つまり中に５人がいる。
ならば死角になる位置はどこなのか、
死角から襲われたらどうするのかを。
――そして、時は訪れる。
静かに魅月の嬢ちゃんが扉を指差すのにあわせ――
勢い良く扉を蹴破る。
目についたのは４人、
執務机で紅茶を優雅に飲む爺が１人、
そして、その周囲を守るように３人の男達。
恐らく爺が大臣だろう。
残る１人は見えないが……
こちらに驚いている隙に手近な二人へ剣を振るい斬り伏せ、
静かに背後を確認すると、
気配の薄い男が１人こちらへと近づいてくる。
恐らくこいつが最後の護衛。
「――チッ！」
机の上の適当な本を背後の男へと投げつけ、
３人目の護衛へと斬りかかるが、
流石に不意を打てず、
剣でしのがれる。
が、すかさず蹴りを入れて吹き飛ばし、
剣を突き刺し、
３人の無力化に成功する。
だが、問題は最後の１人だ。
無力化した３人も、
真っ当に闘えば強いだろう。
だが……
不意を打って真っ当に闘わなければ、
ご覧の通り無力化は楽にできる。
だが、この最後の１人は違う。
必要な時に必要な事をこなす。
暗殺者としての側面もあるのだろう。
むしろこういう状況になれている相手。
予備の剣を抜きながら最後の護衛へと向き直った所で――
背後から斬りかかってきていたことに気付き、
あわてて体を転がして回避するが、
すかさず追撃を入れてくる。
それを剣で払いながら、壁を背になんとか立ち上がる。
相手も背後からの攻撃と、
追撃をしのがれた事で、
こちらへの警戒心をあげたのか、
剣を捨て、ナイフを投擲してくる。
数は４、
しのげない数ではない。
だが――それを弾いた所で、
俺へと接近しナイフを突き立ててくるだろう。
流石に４つの短剣を弾けば嫌でも大きな隙ができる。
故に俺の出来る事は、
あわてて横に飛んで逃げる事だけ。
無論、向こうもそれを予想していたのだろう。
１本の短剣が着地点目掛けて飛んでくる。
いや、１本ではない、
影にもう一本。
迎撃するには２本目が間に合わない。
不味い――
そう思った矢先、
短剣に向かって黒い影が割り込んでくる……
っていうか……
「嬢ちゃん！？」
相手も流石にそれは想定外だったのか、
舌打ちをして、俺に向かって駆けてくる。
俺も驚いている場合じゃない。
剣を握り締め――
それを敵目掛けて投げつけた。
「！？」
さしもの相手も、
慌ててそれをナイフで捌き回避するが――
「遅ェよ。」
すぐさま相手への間合いをつめて、
顎を掠めるようにアッパーを繰り出す。
大きな隙が出来る俺に、
ニヤリと敵は笑みを浮かべるが、
がくんと足の力が抜けたように崩れ落ちる。
信じられない様子のそいつの落としたナイフを拾いトドメを刺す。
「さて、と。」
嬢ちゃんは倒れたまま。
大臣は怯えたようにふるえながら、
声をあげようとするが、
どうやら奴は声が出ないらしい。
「……すまねぇ。
　助かった嬢ちゃん。
　だが、助けるにしても方法が……
　ぶっちゃけ、
　俺も護衛として嬢ちゃんが傷つくとプライドがだな。」
どうやら俺の仕事はこれで終わったらしい。
最後冷や汗もの過ぎたが。
嬢ちゃんいないと明らかに殺されてたのは俺の方だし。
「あら、ごめんなさいね。
　でも、あのままだと負けていたでしょう？
　油断大敵というよりは、
　明らかに相手の方が上だったもの。
　まぁ、貴方の力もまだまだ不足って事は実感しておきなさい。
　鍛えが足りないわよ。」
「返す言葉もねぇ。
　しっかし……
　……そんな奴相手によく気配を悟らせなかったな。」
「割と得意なのよ。
　気配隠し。
　まぁ、でも褒めてあげるわ。
　私がこうしてかばった隙を見事ついたようだしね。
　さて、と。
　それじゃあ……
　最後の仕上げ行きましょうか。」
そういうと嬢ちゃんは何事もなかったかのように、
身体に刺さったナイフを抜いて立ち上がり、
丁寧に血を自分の服で拭うと、
声も出ずただ怯えるだけの大臣の執務机の上にナイフを投げ置く。
すると、大臣の体がびくんとはね。
執務室の紙に突然筆を走らせたかと思うと、
机の上のナイフを手に取り自分の喉へと刺した。
「！？」
「あら、潔い。
　もう全てが終わりと察して自殺したのね。
　さ、行きましょ。
　もう私達がやることはおわっったわ。」
「いやいや、ちょっと待て。
　なんだ今のは、
　明らかに不自然な死に方だったと思うんだが。」
「……私がそう仕向けた。
　それだけの話よ。
　とはいえ……
　このままだと凶賊の仕業だと思われるわね。
　丁度いいわ。」
俺の質問に答えるつもりはないらしく、
護衛達をまるで俺が最後に倒した護衛から守るように配置を変えていく。
守りきったが相打ちになったとでもしたいかのように。
全く……
なんでこんな事に手馴れているのやら。
「これでよし。
　まぁ、自殺に関しては私の力の一つね。
　条件が整ってたと思って。
　ほら、薬手に入れるときもやったでしょう。」
「ああ。
　……こんな真似も出来るんだな。
　怖ェ……」
「割と条件整わないと中々出来ないわよ。
　貴方みたいなのにやろうと思っても、
　複雑な条件が全て揃わない限り上手くいかないと思うわ。」
「それでもだよ。」
「あ、当然だけどバラしちゃ駄目よ？」
「当たり前だ。
　嬢ちゃんには命を救われたし、
　大切な顧客だ。
　墓まで秘密はもっていくさ。」
「良い男ね。
　年老いても変わらないでいてね？」
「そのつもりだが、
　変わったら殴り飛ばしてくれ。
　俺が許す。」
「ふふ、そんな機会ない事を願うわ。
　もちろん機会があったら遠慮なくいくわよ。」
「おう。」
ま、いずれにせよ――
彼女は味方であっても、敵ではなく、
俺が俺である限り敵対する事はないだろう。
基本的にむちゃくちゃなように見えて、
親しい相手には誠実な対応はしてくれる。
それで良しとしておこう。
俺は何も見なかったし、何もしらない。
襲撃によって、
己の罪を自覚し、
大臣は罪悪感に耐え切れず、
ただ自殺しただけなのだと。
それが全てであり結果という事だろう。
だが、ふと立ち止まって俺は一つ聞いてみることにした。
「なぁ？」
「何かしら？」
「操って俺に功績全部押し付けるとかしないよな？」
「する訳ないじゃない。」
「だよな。」
その答えを聞いて頷きつつ、
俺は凄くほっとした。
ああ、それならまだ良かったと切実に。

ペルさんごめん

指先の匂いを嗅いでるワカヅキの鼻面に…

なんとなく、デコピン