「私は、何？」
この人が可哀想で仕方がなかった。嫌われていないのなら、抱きしめて思いを言えるまで、一緒にいてあげたいと思っていた。敵意のこもった緑色の目、憎しみが混在した、緑色の火。私じゃ無理なんだろうか。
「私は…。お嬢様をすく…。」
シルヴィさんがかすれた声で呟きそうになる。それでいいんだ、自分の気持には正直になった方がいい、形のあるものはいつか壊れるんだから。
背中からみにくい羽が茨が生える。気の遠くなるような激痛、服の敗れる音。遠のく意識を茨の冠が繋ぎ止める。しゅるしゅると伸びる茨の先を見据える。きっと敵襲だ、茨が反応するということは。
「ヒナ。」
私の名前、昔の愛される人形だった頃の私の名前。デイジーなのかな。茨はそれでもしゅるしゅると音を立てのびていたから無理やりそれをナイフで切り落とす。岩の陰に隠れているその人に駆け寄る。
アルビノの少女がいると確信して。
「やっぱりヒナだ。」
紫かかった髪、病弱な白い陶器のような肌、この人は。
「ふ、福ちゃん！？病気は？」
「僕はミドリ。福ちゃんの妹。でも、僕は福ちゃん。おねえちゃんがいなくなって、私はおいてかれて、でも私はみんなから嫌われるから、だから、おねえちゃんの心を一緒に住まわせたの。ふーかさんがね、呪詛が魂まで回ったら終わりだからって。だから、僕は緑だけど、福ちゃん。…ヒナに会えてよかった。僕が心配してたから。」
ニッコリと私に微笑むミドリとなのる少女は、よくわからないことをいっていた。
「お嬢様！お嬢様、治りましたの、お嬢様、お嬢様お城さま！」
うつろな瞳、ぼんやりと霞んだ目がシルヴィさんを捉える。嫌な予感がした。福ちゃんが私の魂を再定着させるときに起こるアレだ。


移転させるときに起きる魂の劣化。

本人じゃない体に入れるときに起こる不具合。


記憶の混濁

私の場合は、この体になれてそうなったけれど、でも生きていた記憶はおぼろげだし、体のほうもまともに動かすのに時間がかかった。


「君は・・・僕のとても大事な人だったんだと思う。でも、思い出せない。ごめん。君は誰？」

シルヴィさんの目から光が消えるのが見えた。