「もう限界です！」

　ミズリィはキレた。原因は今日の食卓にあった。城内の制圧した区画、空飛ぶテーブルクロスの上に並べられた朝食は、魔法で合成されたシリアルや麺入りスープばかりだ。
　エルはやれやれとスプーンで魔法のヨーグルトに魔法のフルーツソースを入れて混ぜている。

「何が限界なんだい、賞味期限の限界は突破してないよ」

「潤いです、潤い！　こんな魔法合成品ばっかりじゃ、心がすり減って買い替え寸前のタイヤみたいにみすぼらしくなってしまいます！　心の貧しさは性格の貧しさ、改善を求めます！」

「だってさ、ちゃんとした料理の魔法を使うには、素材となる食材を買わなくちゃいけないんだよ。料理の訓練費用が嵩むから、そんな無駄遣いできないよ」

　苺ソースでマーブル模様になった魔法ヨーグルトを食べるエル。食材無しで作る魔法のご飯は、とても質素なものだ。

「無駄と言う概念を超えた所に、心のゆとりがあるのが分からないんですか？　とにかく、私は豊かで自然の素材を生かした贅沢な大地の恵みを所望します！」

「大地の恵みねぇ……分かったよ。そこまで言うなら考えておくよ」

　そして約束の昼になった。エルは、時間がかかると言ってどこかへ行ってしまった。ミズリィは見晴らしのいい城内の塔の上、窓から景色を眺めていた。こんな場所で何を用意するというのだろうか。ちょっと無理を言ってしまった。
　謝ろう、そう思った。エルは自分の怒りに対して怒りもせず、否定もせず、自分のできることで何とかしようとしてくれる。

　そのとき足音。背の高い影。エルが帰ってきたのだ。手には缶を持っている。

「あ、エル。さっきはごめん。こんな場所で豊かな自然食材なんて無いよね……」

「いや、あったよ」

「え？」

　エルはミズリィの目の前で缶を開ける。すると、そこにみっしりと詰まっていたのは……。

「ギャー！　芋虫！　捨てて、捨ててー！」

「いやぁ、城壁の外の蔦にさ、いっぱいいたんだよね。さぁ、料理をしよう。豊かで自然の素材を生かした贅沢な大地の恵みを御馳走しよう！」

　ミズリィは泣きながら逃げる。エルは芋虫を見せびらかしながら追いかける。

「許して、許してぇー！　私が悪かったー！」

「ほらほら、丸々太って美味しそうだろう？　唐揚げかな？　ソテーかな？」

「説明しないでー！」