『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.25.17:45、とある施設にて――


　少女にとっての楽しい時間は過ぎ、俺にとっての
偽りの……人間らしい側面を持った時間は終わりとなる。
　今回の一件が俺の疑似的感情に影響を与えるのだが、
現時点の俺は『それ』に気付いていなかった。


　緩やかに波打つ黒みのある青い髪、金の瞳に尖った耳の
黒いレザースーツの少女が、退屈そうに川を眺めていた。
川では機械仕掛けの魚が踊っている。
「ディアーだわ」
　少女は青い髪の少女の名を言った。
「ディアー？　あの少女は君の知り合いか？」
　少女は頷く。
「ええ。彼女に迎えをお願いしていたの」
　少女は腕時計に目をやった。文字盤の上を針が回る。
現在では古風な感じの時計だった。
「予定より少し早いけど、そろそろお別れです」
　少し心残りがあるような寂しげな表情だが、
少女は笑ってお辞儀をした。
「今日一日、私の我が儘に付き合ってくださって
有り難う御座いました。とても楽しかったです」
　射撃場の選択は間違いだっただろう。しかし、
楽しかったと少女は笑う。それならいい。
デートというものは、理解出来ていないが、
特に嫌なものではなく、感情は楽しいというものを
示していた。
　その一方で少女から得た情報も良い収穫だった。
「俺も楽しかったよ。それと……」
　忘れてはいけないものを取り出す。少女は
デートがいいと言ったが、少女の反応が見たい故に
作ってみたのだ。
「これは君へのプレゼントだ。廃棄予定の部品の
寄せ集めで作ったものだから、動作は保証しないけどね」
「わぁ……可愛い」
　掌に乗るサイズで白銀に塗装された『きゅい』の
玩具だ。ぱたぱたと小さな翼を動かせて「きゅい」と
小さく鳴いた。
「これ……いいのですか？」
「いいよ。君にあげる。気に入らなかったかな？」
　少女は首を振る。
「いえ。可愛くて凄く気に入っちゃいました。
有り難う御座います」
　微笑み。本当に嬉しいのか、別れの時刻を知った
表情とは異なり、そこに悲しみの色は微塵もなかった。
「……出来はいまいちだがね」


　別れ際に少女は言った。
「重要なお話を忘れるところでした」
　少女は頬を染め、俺の目をしっかりと見つめた。
「何？」
　呼吸を整えてから切り出す。
「2077年12月24日。二年以上も先の話ですが、
丸一日デートの先約をしてもいいですか？」
「……先の話だな。その日があいていたらな」