その日は朝からよく晴れていたように思う。

　初夏らしく暖かで吹き渡る風が心地よく、午前中に幾つかの討伐依頼を片づけて。
　庭で丸まっているキラーカンガルーのお腹を枕に借りて昼寝をしていた。

　――までは覚えてるんだけどね。

　起こった突然の出来事自体を疑っていても仕方ないので、簡単に経緯を振り返ってみた。
　転移は遠出をするときには使っていたし、異世界に関しては幽界くらいなら行き来した経験もある。
　だけど、此処はそういった類のものと比べても異質みたいだ。
　外見は変わっていないように見えるのに、ごそっと力を奪われた感覚があって。代わりと言うように不思議な繋がりから力を注がれているようだった。
　これはエンブリオというものなのだと、出会った二人は教えてくれた。その時、何故だか短い期間ながら傍に居続けてくれた、ある精霊を思い出した。
　もっとも、彼女のことを忘れたことなどないのだけれど。

　強くなりたい。強く在りたいっていう欲求は、あの冒険が終わってからもずっと心の内に在り続けている。多分この気持ちはなくなることはないんだろうなぁとも思う。
　この世界で強さを示す手段と成長の方法は俺の知ってるものとは異なっていて戸惑いを感じずにはいられないけれど……うん。このくらいのことなら、困難でも何でもない。それだけの経験はもう積んできてるから。
　何より。どれだけ離れていても。傍に姿が見えなくても。俺は独りじゃないってことはもう知っているから。
　この状況の何もかもを楽しもう。楽しみながら前に進もう。きっと此処で体験した全部が土産話になるだろうから。

　思わず漏れた笑い声に、自分が笑みを浮かべているのだと気付く。
　次々と『知らないこと』を『知っていく』ことが出来る自分は本当に幸せだと思う。


　『まずは全力で戦っても勝てない相手とやりあって、負けてみるといい』
　そう、助言なんだかよくわからないことをもっともらしく告げた通りすがりの人の言葉に従って、オススメな場所にやってきてはみたんだけど。
　確かに随分と身体の調子が違うから、今の力を把握するっていうのは大事だよね。
　あんまり派手に怪我したら普段はなんだかんだと怒りながらも世話を焼いてくれる幼馴染の姿もないし。敗北が世界の未来を閉ざすような深刻さもないし。
　そういう意味ではすごく気楽。ただまぁ……背伸びな相手だとしても、足掻かないって選択だけは採れないんだよね、俺。

賞金首が次の獲物を探してふらふらと彷徨っている。

狂気で満たせ、その空腹を