『もうちょっとだ。もうちょっとで今の仕事が片付く』

電話越しのスギの声には、はっきりと焦りの色が滲んでいた。
私の胃の腑に冷たいものが落ちて行くのを感じる。

「もう少し、かかるの？」

私の声も、随分ひどい色になっていたらしい。
向こうでスギがため息をつくのが分かった。

『ベソかいてんじゃねーよ、いい年して』
「か、かいてないって」
『どーだか。……まあ、待たせてるのは悪いと思ってる。近日中にはそっちに行けるよう調整するから、もう少し待っててくれ』

うん、と答えた自分の声が、随分と子供じみているのが分かる。
……私は一体どこまでスギに寄り掛かれば気が済むんだろう。

『それまでは今まで通り様子見だ。不安定なそっちじゃ難しいかもしれんが、あんまりショック受けたり驚いたりするようなことは避けろ。何があるか分からん』
「分かってる。もう、誰かに襲われるのはこりごり」


私はその時、賞金首にだけ気をつければいいと思っていた。
そしてそれが甘かったのだと、今になって、思い知る。
ああ、あんなのがうろついてるなんて聞いてない。
あれはまるで、この前の、私、みたいな……



（男は青ざめている）
（視線の先には、不定形の、黒い生き物）

紫鯤の反応に肩を震わせている

　

　

　

　

やれやれと肩をすくめる

　

　

ぶるっと震える

　

　

　

　

そう言うと、上を仰いで深呼吸するように大きくひとつ溜息を付くと

ふと口をつぐむと、何か気がついた様にあっと小さく声を上げて

じりじりと仲間の後ろに移動しつつ

いつも通り目の前に現れた新王の手下達、その一つを見た男が息を呑む。
ぐにゃぐにゃとうねる、可塑性に富んだ不定形のいきもの。

それはつい先日、知らず知らず己が変じた姿を見せつけられるようで。