エルはこたつを作っていた。

「何ですか……その、四角いUFOみたいなのは」

　草原のキャンプ地、焚火のそばで、ミズリィが作業中のエルを横目にパンをフライパンでトーストしながら話しかけてきた。フレンチトーストを伝聞だけで実行するとこうなるのかと、エルは思ったが特に突っ込まなかった。

　エルはいま四角い木の板を空中に浮遊させて、熱源となる機械をその下にくっつけている作業中だ。空飛ぶ絨毯ならぬ、空飛ぶ机。人間を浮遊させるほどの力は無いが、持ち運びに便利である。

「これはこたつというんだよ。寒いとき、この机の下の足を入れて温まるんだ。この上に布団を乗せて、木の板を置く。すると、暖気が逃げないって寸法さ」

「なるほど、変わった発明品だね」

　ミズリィはフライパンの上のトーストをひっくり返し、ごま油を振りかける。どうやら本格的に勘違いしているらしい。しかし、パンのカリカリした食感とごま油の香ばしさが加わって、おいしそうではある。

「よし、熱源設置完了。試運転してみるよ。これで温かい空気が出てくれば成功さ」

　浮遊コタツには紐がつけてあり、地面に刺さった楔と結ばれている。本来のこたつには足があるが、この浮遊こたつはそれだけで浮遊するため、足がいらない。

「３、２、１、起動！」

　次の瞬間、バチバチッと熱源部分に火花が散り、凄まじい勢いで熱風が噴き出してきた。地面の雑草があっという間に焦げて灰になっていく。

「……こたつって随分エクストリームな家具なのね……こんな熱いなんて」
「いや、失敗だ！　こんなの強すぎる、熱すぎる！　止めなくちゃ……止め……あれ、制御できない！？」

　浮遊コタツから噴き出すものは、そのうち熱風から火炎へと変わり、凄まじい勢いで紐を引きちぎり、空へと舞い上がっていく。

「ウワー！」
「ぎゃー！」

　やがて爆炎を噴出しながらこたつは空を突破して宇宙の星のひとつになった。

「僕の魔法が……失敗するなんて」
「あはははは、花火くらいにはなったよ、失敗も面白いね！」

　そう言ってミズリィは狐色に焼き上がったトーストの半分を分けてくれた。これが今日の朝食だ。

　それはフレンチトーストと言い難いほどの失敗作だったが……香ばしく、とてもおいしかった。