『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.25.16:38、とある施設にて――


　水路をゆっくりとした速度で小型の船が進む。
　ロボットの船頭は客の様子を確認することもなく、
淡々と自分の仕事をこなしていた。


　少女は元軍人の少佐だと言った。信じられない。
　少女が表情を曇らせる。
「軍人としてのお仕事は殆どしてませんけどね。
私はただの研究対象……軍の都合の良い
道具でしかなかったなかったから」
「どういうことだ？」
「言ったでしょう。未来を読めると。私は魔女なのよ」
　籠バッグからノートのようなものを取り出し、
適当に開いた。無地の頁があるだけだった。
「本、ノート、雑誌……何でも良いの。私が意識すると
先を読めてしまう。自分以外の人の未来が……」
　本の何もない頁を捲る。彼女には真っ白な頁に
何かが見えているらしい。
「ミライさんの未来だって……」
　言葉が途切れた。少女の頬が桃色に染まる。
「……見えるのですよ」
　何故か頬を染めて答えた。俺にアオイ少佐の
影を重ねて見ているだけなのだ。俺も自身に設定された
嗜好に照らし合わせるなら、この少女に好意を
抱くことは絶対にないだろう。人間的な思考を
完全なものにしない限り、嗜好が揺らぐことはない。
「どうかしたのか？」
　少女は慌てて首を振った。
「な、何でもないです」


　少女は落ち着いてから話し始めた。
　全く知らない話だった。特殊能力を持った人間が
特殊施設にいて、一部は軍の兵士として働いていると
聞いたことはあるが、内情は詳しく知らなかった。
「軍はこの力を自由自在に出来ないかと考えてね。
私は無理矢理軍に連れてこられたのよ。一部の軍人は
己の欲のために、私の力を欲した。
ずっと孤独で寂しくて……でも、アオイ少佐の存在が、
孤独だった私を助けてくれた。彼が居たから、
私は孤独じゃなくなったの。でも……」
　機械仕掛けの魚が跳ねた。
「私を軍から逃がそうとして……彼は殺されたわ。
彼は名誉の戦死なんかじゃないわ。殺されたのよ。
同じ軍の人達にね」
「アオイ少佐と言えば……それなりに知られた人物だ。
彼が殺されただって？」
「あら？　ロボットさんもとても驚いた表情が
出来るのね。残念乍ら、軍は軍にとって不利な情報を
隠蔽してるわ。いろいろと……ね」
　少女は意味深な笑みを浮かべる。
「アオイ少佐が死んだ直後、私はディバイダーに出会い、
ディバイダーが私を助けてくれたの」