『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.25.16:25、とある施設にて――


　水路をゆっくりとした速度で小型の船が進む。
人型ロボットの船頭が船を漕ぎながら、流れていく
景色の説明をしている。

　機械仕掛けの小魚が跳ねた。
「きゃっ！？」
　景色を楽しんでいた少女は驚き、俺の腕に
しがみついた。
「大丈夫。怖くないよ。魚のロボットだよ」
「吃驚しました。魚だったのですね」
　少女が顔を上げ、腕にしがみついたままだと
気付き、腕から手を放そうとした。
「……ん」
　放そうとした手が、再び筆を掴む。
「……もう少し、このままでいていいですか？」、
　俯いたまま、小声で言った。
　意図が分からないが、悪い気もせず、いいよと
頷いた。

　暫くして、少女が口を開いた。
「……違うって判ってる。それでも、暫く
こうしていたいの」
　何故、彼女の希望がデートだったのか。
何故、知りもしない相手を助けようとしたのか。
俺なりに幾つかの答えを探していた。ミステリー
小説にありがちな展開をいくつか想定していたが、
どうやらかすったかもしれない。
「……成る程ね。軍人さんが当たりか。悪いけど、
俺はアオイ少佐じゃないし、人間ですらない」
　アオイ少佐……数年前に害獣との戦闘で戦死した少佐だ。
その少佐と俺の容姿が似ているのである。髪を黒く
染めれば、ほぼ完璧である。
「貴方は彼を御存知なのですか？」
「いや。詳しくは知らない。君が俺に接触した
理由が判らないから、試しに自分の容姿を検索したら
この軍人さんが引っ掛かっただけだ。偶々さ」
　少女は俺に知り合いの男性の影を重ねていたのだ。
残念な話である。俺に恋愛という感情があればの話だが。
「そう……ですか」
「君は軍の関係者なのかい？」
「……関係者というか……うん、関係者かな」
　少女はぴっと背筋を伸ばし、俺が見慣れている
敬礼をしてみせた。
「特殊部隊所属、パンドラ少佐。それが私」
「……は？」
　この十五か十六の少女は何を言い出すのだ。
少女の軍人も例外的に居るが、有り得ない階級だ。
年齢的にも、身体的にも、歴戦の強者とは思えない。
「私は元軍人なのですよ。あ、信じてないのですね？」
「信じられないだろう。俺がロボットだからって
からかってるのか？　銃も扱えない君が少佐だって？」
「からかっていませんよ。本当に
所属していたのです。それは……まぁ、
ただのお飾りみたいな所属と階級でしたけどね」