はじまりはいつも霧の中だった。視界を、全てを覆う白い霧中。
一寸先は白なんて優しいものではない、自分の手すら確認できないほどの濃度。

方向も時間も重力も、まるでその概念がなくなったかのように感じさせない。
全てが停まっている、零と一のどちらでもない切り取られた空間。
在るのは自身という意識のみ。


――キンッ！キィンッ！！


“今回の”切欠は音だった。金属同士が打ち合い響く、鋭い音。
音と意識。二点の間に方向が生まれ、意識は音の方を――意識が方向という概念を獲得したからか、乳白の霧は晴れている――向く。

視界の先には、双つの剣閃が疾る。


その双剣に華麗さはない。しかしそれを繰る者の覚悟と揺るぎない強さが剣跡として、崩れていく魔物がその証明として、
いつの間にか、“彼”の真後ろに立っていたレンツの瞳に映る。

いつもの――何時からか視るようになった、一人の男の“夢”だった。
否、その認識も今では変容している。
これは、ハルトムートの記憶だ。


彼は二本の剣を巧みに扱い、敵を薙ぎ払う。
時に仲間を庇い、時に傷を負いながら。勇猛に。果敢に。

その背中は、まさに英雄という称号を背負うに相応しい。

そして黒髪を翻し、赤い瞳がこちらに向けられる。
まるで俺が守るべき大切な存在のように、安堵の表情を浮かべ。

夢はいつも、ここで覚める。
霧散する。消滅する。解放される。ハルトムートと別れを告げる。

――だからきっと、

――この問いも同じように、消えるだろう。