(※あいも変わらず本編とはあまり関係ありません。
　 前回の続きとなっております。
　 前回自体続きなのでそれ以前の日記の方もどうぞ。
　 良ければ過去の日記とあわせてお読みください。)

首都に到着して、
契約が無事終わる。
案の定、
依頼人である商人も、
ここで一旦腰を落ち着けるらしく、
契約の続行は無かった。
つまりは俺はフリーになったわけだが、
当然の如く、
そのままフリーにというわけにはいかない。
なぜなら――
「さ、それじゃ兼ねてからの約束通り、
　暫くの間よろしくね。
　まぁ、ここは治安いいみたいだから、
　よほどの事がない限り大丈夫だと思うけど、
　何かあったら私から喧嘩売りに行くかもしれないから、
　その時がメインになるかしらね。」
「……堂々と問題は自分から起こすって宣言とか、
　正直どうなんだよ、
　クライアントにやれっていわれればやるけどよ。
　一応護衛としては、
　問題が起きそうなら問題が起こる前に解決したいんだが。」
「それじゃあつまらないじゃない。
　別に私の命を護る訳じゃないから、
　どしっと構えてここぞと暴れればいいのよ。」
「そりゃ、そうだが……
　丁度年頃の乙女、かどうかはともかく、、
　女性なんだから、
　男としては色々心配なんだよ。
　少なくとも俺にとっては、
　どちらかというと護ってあげる対象だしな。
　そして、知ってる通り、
　仕事に手は抜きたくない。
　となると、
　やはり問題が起きる前にどうにかしたいというのは当然で、
　仕方ない事だろう？」
「ほんと紳士的なのね。
　紳士には見えないけど。
　まぁ、でも、私１００は超えてるんだけど……」
１００を超えているという発言に多少驚きはするが、
不老不死で、
魔女を討つ力があるなら、
それくらいは当然かとも思うが……
たとえ何歳であろうと、
見た目がか弱い少女なら、
相応に扱う。
なぜならそんな事情など、
知らぬものにとっては分からない事だし……
俺自身、
何をいわれても、
見た目がそんな感じである以上、
それ以上に見る事など出来ない。
更にいえば、
年上はなるべく敬うものであるから、
理由にはなりえない。
「関係ないだろうに。
　俺にとっては護るべき相手であり、
　女の子であり、
　襲ってくる奴等からしても、
　護られるべき女の子なんだから、
　そう扱うのが普通だろう？」
「ブレないわね。
　まぁ、実直な所があなたのいい所であり、
　私がお願いした理由でもあるのだけど。
　――ま、確かに危険に近づかないというのが、
　一番の解決方法なのは間違いないわ、
　でも、ね。
　それ以上に大切なのは流儀であり、
　退屈しないかということよ。
　それに無闇に喧嘩を売ったりはしないから安心して。
　私が必要だと思ったときだけだと約束するわ。」
「ま、最初から完全にとめれるとは思ってないし、
　やはりそこが妥協点か。
　ああ。十分だ。
　選ぶ以上、
　向こうから絡んできた場合はともかく、
　此方からちょっかいかけた場合、
　否応無しに大きな出来事になるが……
　ま、雇われた時から分かっていた事だし、
　危険が多いほど俺にとってはチャンスにはなるか。
　力と功績を示せば、
　それだけで名を売ることが出来るし、な。
　デメリットもメリットも、
　傭兵をやる以上今更な話。
　好条件過ぎて涙が出てくるな。」
「自棄になってないわよね？」
「まさか。
　本心だとも。
　ただ、まぁ、クライアントとはいえ、
　嬢ちゃん相手なら、
　正直にかしこまったりしない方が好まれるだろう？
　だったら……
　まぁ、少しくらい反撃してもいいだろう？」
「それならいいわ。
　ええ。かしこまったり、
　変に気遣ったりされると、
　こちらが困るわ。
　まぁ、なんていうか、
　旅の仲間みたいな感じの関係ね。」
「了解だ。
　しかし、
　本当に嬢ちゃんは変わってるな。
　普通に旅の仲間になれ、
　といわないんだからよ。
　別にそれでも……」
「あら、だってそれじゃあつまらないわ？
　いや、だって……
　どっちが上でどっちが下かははっきりさせた方がいいでしょう？
　無論、そうじゃなくてもいいのだけど、
　あなたの場合、
　此方が上って明示していたほうが楽しいもの。」
しかし、それにつけてもこの嬢ちゃんは、
魔女を倒しただけあってというか、
魔女よりも魔女らしいというか……
性格が恐ろしい程悪辣だと思う。
悪人というわけではない。
寧ろ、悪人か善人かといわれれば、
善人であり、
一般的な罪を犯すような人物ではないだろう。
眼には眼を歯には歯を。
好意には好意で返し、
悪意には悪意で返す。
聖人とも悪魔ともなりうる人物。
その基準の根底にあるのはどこまでも自分。
だからこそ、悪辣である。
優しいから許される。
そう思ったものから落とし穴にはまっていく。
敵対すれば、
勝手に自滅していく。
勿論、加減も程度も知っている。
だからこそ、
彼女は不必要な揉め事を起こさない。
とはいえ、
彼女の尺度、
面白い事については理解しきってるわけではない。
だからこそ、釘は刺す。
そして、その行動を起こす事に満足する。
いつでも誰かを試している。
試されたほうとしては、
試されたなんて気付かない事が往々にしてあるが……
「気付けるからこそ、
　あなたと私は今の関係が丁度いい。」
きっと、彼女はそういうだろう。
全く、
どこまで分かっているのか、
本当に底が見えない。
もしかしたら、
何も分かっていないのかもしれない。
でも、それは絶対に彼女は見せないし、
更に……
少しでも弱みをみせれば、
かならずそこに漬け込んでからかわれる。
「ま、可愛らしい女性にたよられるのは悪い気分じゃないし、
　悪い奴じゃないのは分かってて、
　それでいて好条件を揃えてくるから、
　不満はないというか、
　抱いちゃいけないんだがなぁ……複雑だ。」
それじゃ、また明日。
明日からが本契約よ。
そういって手をふりながら去る彼女をみてそっとため息をはいて呟く。
それくらいはいない時にいわせてもらわないと、
流石に少し疲れてくる。
全く、俺も年をとったのかと感じさせられる。
年はとりたくないものだ。
それでも彼女と違い、
不老不死ならざるこの身は、
好む好まざるに関わらず老いてゆく。
ならば受けいれるべきなのだろうが、
まだまだ俺は其処まで枯れていないという事だろう。
さて、明日から始まる新生活。
俺にいったい何をもたらしてくれるのか。
期待してはいけないが、期待したくなくても期待してしまう。
彼女は非日常、
イレギュラーの塊なのだから。
何もなく、枯れていくのもいいだろう。
だが、
枯れずに何かをなすか、
枯れぬまま朽ち果てるか。
その運命の分岐点には違いない。
願わくば……
何もなく枯れていく事だけは避けたい俺の希望をかなえてくれよ？
嬢ちゃん、ではなく、
俺の運命の糸を引く神様よ。
――流石にこんな事、
嬢ちゃん自身に期待するようじゃ、
俺らしくもないし、
何かあってほしいとは願いつつも、
嬢ちゃんが不幸になってほしいわけでもないから、な。

本契約は明日から。
そういったのには理由がある。
流石にここにきて、
ここの裏事情を知るには、
私一人で動いた方が楽だし早い。
その様子に関して、
誰かに見られる事は避けたい。
というのも――
私がこうして情報収集しているのをはたからみると、
誰もいない空間に一人でぶつぶついってる変な人にしかみられないからだ。
もし、
誰もいないわけではなく、
私が何かと喋っている人ならもっと最悪だ。
その光景の異様さに、
発狂する可能性もある。
なぜなら私の周囲には霊達が異様に多い。
それは普通にしていれば見える人間であっても、
見えない霊がほとんどではあるものの、
それが見えてしまえば、
普通であれば普通ではいられない。
あってはならない光景がきっとそこには広がっているだろうから。
ちなみに私に関しては、
もう完全になれているので、
ぶっちゃけ気にならないのだが。
さておき、
こうして裏事情を調べようと思った理由は只一つ。
この国の姫が隣国に嫁ぎ、
魔女の手によって呪いをかけられた。
つい最近、私が解決して、
呪いは解けたのだが……
呪いがかかった姫の為に動いたりしなかった事が気がかりだった。
嫁いだのだから、
わが国には関係ない。
もしくは、
不慮の事故だから仕方ない。
それだけで終わっていたのかもしれないけど、
あまりの動きのなさが私にとっては不可解だった。
それだけ、といわれればそれだけなので、
証拠にも懸念にも不十分といえば不十分なのだが、
私にとってはしったこっちゃないのである。
調べて問題があれば、
それが証拠。
何もなければ何もなかったで終わり。
別の面白い話を見つけるだけである。
だが――
「残念ながら問題ありの方だったわね。
　こちらはこちらで別の問題を抱えている。
　だからこそ動けなかったし、
　それを悟られる訳にはいかないから、
　向こうに関しても干渉したり、
　深く突っ込む事を避けたといった所かしら。
　まぁ、いくら友好があっても、
　違う国同士なのだから、
　弱みを握られるのはまずいわよねぇ。」
思わず、笑みを浮かべ呟く。
笑い声を出さなかっただけでもよしとしたい。
それくらいに、
この国の現状は面白い。
人の不幸を笑うのは良くない事だけど、
私はその不幸を食い物にするのではなく、
不幸を与えた者達を食い物にする。
確かに私に迷惑はかかっていない。
だからほっておけばいいのだが、
それではつまらない。
折角、
私が遊んでも問題ない相手がいるというのに、
遊ばないなんてもったいない。
そんな考えでは足元をすくわれる。
相手を舐めないほうがいい。
普通ならばそういわれるだろうし、
実際舐めるつもりはない。
全力でやったとしても、
そもそも立ち向かう事が無謀とかいわれるのだろうが……
私には惜しむものがないのである。
むしろ、私を本当に殺せるものがいるのであれば、
それはそれでいいと思う。
残念ながらそんな存在にあったことはないし、
死ぬ気もないのだが、
だからこそ……
どんなに最悪に転がったとしても、
私にとっての損といえば、
お気に入りの玩具というか、
それに巻き込むであろう傭兵の彼の不幸くらいのものだが、
あれは寧ろ、
命があるとか、
命がないとかではなく、
私とは違う形で、
平穏よりも闘争を。
退屈な毎日より、刺激ある一瞬を求めるタイプだから、
むしろ、この件に巻き込まれる事を良しとするだろう。
大きければ大きいほど、
彼がしっかり頑張れば頑張るほど、
彼は名声を得、
彼の求むものは満ちて行く。
いうなれば、
失うものがない二人が、
全力で加害者をひっかきまわすのだ。
実に相手にとっては災難な話だとは思う。
だが、
私がそうしたいと思ってしまった以上、
残念ながら逃したりはしない。
それにしても――
「幸運薬。ね。
　服用するだけで幸運が舞い込んでくる。
　仕事で、
　人間関係で、
　恋愛で、
　趣味で……
　ありとあらゆる分野で服用するだけで効率があがり、
　幸運を運んでくる。
　まぁ、使いたくもなるわよね。
　服用したが最後、
　その薬無しでは生きていられないようになり、
　最後には廃人になる……
　麻薬でなければだけど。
　しかも上層部のかなりの数がこれを服用して、
　どうしょうもない事になってるなんてね。
　こんな内情知られる訳にはいかないわよねぇ。
　もう、国は乗っ取られる寸前。
　今頃これを仕切ってる人間は、
　最後の詰めを行うだけなのかしら？」
だとすると、
私が遊ぶには一番いいタイミングに来たともいえる。
絶頂にいる最中、
ありえない出来事の連続で転覆するなんて、
最高のシナリオだと思う。
いつの日か、
私が逆の立場になるのかもしれないけれど、
それはそれで楽しめると思う。
ハプニングのない世界なんてつまらない。
先が見えない、
突然の出来事があるからこそ楽しい。
その面白さに対して、
私の相手はどんな反応を、
どんな感情を示してくれるのか。
私にみたいに楽しめる相手なら面白いのだけど、
恐らくはそうじゃないのが残念といえば残念か。
さしあたって……
何名かを誘惑して、
潰していくとしよう。
まずは盛大に敵対する意志を示し、
相手を警戒させ、
こちらへ対処させようとさせる。
警戒でこちらに手をださなければ、
更に引っ掻き回しこちらを見て、
対処させる。
対処を打ち破り、
泥沼へと引きずり込む。
こちらはたった二人。
メンツに賭けても引けなくなる。
放置したくてもさせてあげない。
さぁ、踊れ踊れ、
この国という舞台の上で。
勝者は私という結末を、
どうひっくり返すのか、
どう踊り動くのか、
存分に楽しませてもらうといたしましょう。

溜息と共に、若干表情が真剣なものになった。
…が、それも一瞬だけの話。