魔法について熱く語っていた商人の青年はむしろ少年の目には純粋にすらうつった。
うんうんと唸りつつ考え込む少年に軽薄なトーンで青年が声をかける。

この男が信頼に足る人物か否か、少し話をしてみるのもいいかもしれないと考え、
少年はエンヴィアについて尋ねる。

オブラートにくるむことなく直球で尋ねる少年に青年は、
ははっ、と乾いた笑い声を上げ、問いに答えはじめた。

淡々と語る男の話に頭が追いつかないのか
理解しようと必至な様子の少年が何とも言えない相づちをうつ。

一息に言い切ると男はおどけた様子で更に言葉を紡いだ。

ディマジオの語った話の真偽は分からない。
その出来事がどれほどの悲劇なのかも少年には想像がつかなかった。
本当に悲劇なのかもわからない。世の中にはそのチャンスすら与えられない人もいるだろう。

少年が顕わにした怒りに青年は楽しくて仕方ないという笑みを浮かべた。

うっすらと笑みを浮かべつつ語る青年に圧倒され、少年は言葉を失うしかなかった。
そんな少年を見下すような視線を一度向け、
その後興味を失ったかのように青年は無言でその場を去った。

何も言い返せなかった事に戦いで敵に苦戦した時とは違った無力感を感じた。
人の不幸を願う程の絶望とはどんなものなのか。
自分のことで精一杯な現状は自分が一番理解している。
だからこそ人のことなどそう簡単に救えるとは思っていない。
それでも、人の不幸を願って生きるような真似はしたくはないと確かに思った。
だけどその思いを貫くには、戦いとはまた違った力が必要なのではないか。
助ける事は出来なくとも、苦しんでいる人に手を差し伸べる事のできる人間でありたいと思う。
しかし、ディマジオが最後に放った言葉がじくじくと胸を蝕んだ。

その夜少年は悔しさで眠れなかった。

偉そうに諭す様子で得々と語っていたが、花冠との関係を問われれば口篭り。
視線を逸らしながら、ぽつぽつと話し始める。