『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.25.11:36、とある施設にて――


　ロボットにデートを任されても困る。
　ショッピング、各種娯楽施設、飲食店……デートの
定番らしいコースは調査済みであるが、相手の素性も
好みも知らない。何が良いのか判らない。
　コース毎に人気によってポイントと適当な乱数を
割り当て、特定の法則に従って、抽選によりコースを
出した結果が現状である。

　確率が低い筈のものを引いてしまった。スポーツの
射撃である。


　赤の光線があっちこっちへと模様を描く。光線は
デフォルメにされた怪物の立体映像にかすりもしない。
立体映像は動くことなく、その場で笑っているだけだ。
「えい！　えい！」
　少女が何度か引き金を引く。赤い光線は天井や背景の
立体映像に向かって消えた。
「あれ？　全然当たらないです？」
「落ち着いて、最初は誰だって当てられないよ」
　ロボットであるが、俺も射撃は得意ではない。
　拳銃を両手で構え、目の前に居た標的に光線を放つ。
光線は怪物に命中し、怪物は白旗を振って逃げていった。
「俺も初めては当たらなかった。構えてごらん」
　彼女に構え方を教えようとした時、側に置いていた
彼女の籠バッグに腕が触れた。籠バッグが台から落ちる。
「あ……」
　幸い中身が飛び出すことはなく、ノートのようなものが
はみ出しただけだった。
「御免な……」
　籠バッグを拾おうとした時、ノートに指が触れた。

　おかしな映像が処理の間に割り込んできた。
　暗い空間、機械で出来た瓦礫、青白く光る水槽の底で
輝く無数の石、高炉のような設備、見たことのない
巨大ロボットと無数のロボット……そして、白く輝く
『核(コア)』と誰かの影。
　記録にはない風景、不明機が一つの映像となって
流れ込んできた。
　数秒の間、俺は奇妙な映像を見せられた。それが、
何の映像なのか理解も解析も出来ない。

　少女が不安そうな声を出した。
「ミライさん？　どうしました？」
　少女の見せた映像ではないのか？
　俺は籠バッグを拾って渡す。
「……ん。何でもないよ」
「本当に何もないですか？　お顔の色が悪いですよ。
もしや、何処か壊れたのでは？」
　少女はハンカチを取り出す。
「いや、大丈夫だ。御免。脳内の情報を最新の情報に
更新しただけだ」
「大丈夫ならいいですけど……何かあったら
言ってくださいね。デートよりも、ミライさんが
辛いと、私も辛くなります」