修務のスケジュール帳
まだ何も書かれていないようだった

　常識外れな音量に耳を押さえてそう怒鳴り返せば、エンジェルはシュンとしたように頭を垂れてしまった。姿が美女だけに、ものすごい罪悪感にかられる。何せ美女がものすごく縮こまり、怒鳴り返されて涙を零さないように顔を真っ赤にさせて震えているのだから。美女が。

　だが此奴はあのエンジェルだ。

　演技の可能性も十分ある。そう考えた上で修務は、
　――こほん。
　咳払いを一つし、

　こくり。小さくうなずくだ、
　異様なほど大人しい姿がやりづらい。修務は困ったように腕を組んだ。

　意を決して謝罪した感はある。だが、それと同時に、これが罠の可能性も十分ある。
　許した途端、また何か良からぬことをしでかす場合がある。
　
　十分ある。

　真実を、こいつの嘘を見極めなくてはならない。
　そう思い、腕を組んで険しい表情で悩んでいると、ぎゅっと目を閉じたエンジェルの目から涙が零れていった。

　ぼろぼろと涙を流しながら、ついでに鼻水も流しながら、エンジェルは情けない声を上げてわんわん泣き出した。
　流石のこれを演技なんて疑うほど、修務は捻くれてはいなかった。

　おろおろしていると、

　どこからともなく湧いてきた外野。
　目の前で泣いているエンジェル。

　修務は観念したように、エンジェルに少し近づくと

　仮にこれが騙しだとしても、ひとまず落ち着かせたかった。
　次に来るのは『どっきり！』の看板だろうか。
　襲ってくるであろうからかいをグッと堪える心構えをしていると、

　エンジェルが泣いたまま胸に飛び込んできた。

　口に出しそうなのをグッと堪えて。

　背中をぽんぽんと叩いてやった。


　泣き止むまで、まだしばらく時間がかかりそうだった。



修務のスケジュール帳
謝罪が入ったので、許すことにした