一陣の風が吹いた。
　漆黒の風が吹いた。

　地下牢の天井にかかるランタンの頼りない光源を一斉に薙いで、掻き消して。
　闇の支配者が、遂にその姿を現す。

　骨の啼く音が、する。
　いやに軽やかに華やげなその啼き聲と、暮夜りと浮かぶ、そのものの姿。

「貴様が不死の王か」
　
　問いかけに対する応えは、無い。
　ただ無数の骨で組み上げた肢体を不気味に動作して。

　不死王の周囲を取り囲むは、数多の亡霊。
　この地下牢で命を落とした者達か、あるいは不死王が殺めた者達なのか。
　いずれにせよ確かに言えるのは彼らが決して友好的な存在ではないということ。
　人の相貌を辛うじて残したそれら悪霊たちが一様に浮かべるのは苦悶と憤怒と憎悪と……敵意。

　不死王の紅き眼が光る。
　渦巻く悪霊たちが、次なる獲物を目がけて、蜷局巻く蛇の群のように突っ込んでくる。
　
　ゼイラスの禍焔剣が、背に設えた巨大な鞘より引き抜かれる。
　地へ叩きつけるようにして振るわれた初撃が、迫り来る悪霊の波を真一文字に切り裂き散らす。

　次々と怒涛の勢いで襲ってくる悪霊の波動に対し、ゼイラスの禍焔剣ディグレジアが灼熱の炎を吐き出した。
　漆黒の闇そのものを焼き尽くさんと猛る剣を手に、ゼイラスは歩みを進める。
　不死の王へ。
　幕引きのために。

「不死の肉体など、幻想の産物に過ぎぬ
　それを今から俺が証明してやる
　貴様の命無き命、この禍焔剣が……斬る！！！」

　不死王の錫杖にも似た得物と、ゼイラスの禍焔剣が中空で交わり火花を散らす。
　今、地下牢最後の強敵との死闘が開始された。