「手記」

ヴァルキリーと名乗る少女と戦った。
「力が欲しいのなら」と彼女は言った。
わたしは、力が欲しいのだろうか？

彼女はオリヴィアという少女の力であるらしい。
オリヴィアの父は行方が知れないという。
こうして訪れた力ある者に父のことを頼んでいるのか。

配下の者たちの言葉によれば、父王とやらは様子がおかしいようだ。
オリヴィアは父の所在を知らなさそうだったが、彼らは知っているのだろうか。

家族を想う気持ち。
――わたしにも、家族がいたという。
わたしの父や母は、わたしの行方を捜しているのだろうか。
心配しているのかもしれない。
「わたし」にとっては会ったこともない人たちだが……
その心を思えば、申し訳ないような、そんな気持ちにもなる。
だが、こんな状態では帰れまい。
そも、帰る場所だって、知らない。
帰る場所を知ったとき、わたしは、そこに「帰る」気持ちになるだろうか。
わからない。
心の奥底が、ざわめく。



ただ一つ間違いなく言えることは、わたしが親不孝者だということだけだ。


{彼女の記憶の欠片は現在「356」＋5＋ 1D5 = 1 ( 1 ) }

彼は、顔をくしゃりとさせた。
口を開き何か言いかけ、声はそれより半拍後れてついてきた。

緊張の解けた彼女の声に釣られるように、そっと横顔を盗み見る。
穏やかな表情に、口元がつい緩む。

けれど彼女の視線があがるか上がらないくらいで、ゆっくりとした瞬きでやりすごす。

言いかけて顔を向けると、彼女は首を振る。
手もとで弄っていた草を取り落とす。

目は逸らさなかった。
――逸らしそこねたのかもしれない。
今言われた言葉の意味を反芻するように、彼は彼女を見ながら虚空を見ていた。


それからじりっと目に光が灯り、
けれど今度は逸らさず、まじまじと瞳を覗きこむ。

眉根に皺が寄り、いささか難しい顔になる。――どこか、怒っているような。

それでいて、目の逸し方を忘れでもしたように、じっと。


　

絡みつくような視線が痛くなる寸前で、
ぽつりと呟く。

瞳を閉じて、視界を遮断する。
口元は笑みをかたどっていたが、開いた目は、下を向いていた。

手が、伸びる。

彼女の額に。

頭に直接触れたのは、ツメクサの花冠。

間に器用に編み込まれた鎖がしゃらりと音を立てる。
薄紅の貝殻を幾重にも重ねた台座にぽつりと座る真珠がひとつ。

お代はやっぱり、その時まで取っとくよｗ
いつもの悪戯めいた調子で男は笑う。



しかしその次に続く言葉を聞いて、その笑顔は微かに凍りついた。

そっと、彼女と逆側の脇腹をかばうように手を添える。
青いレンズの向こうの目は、表情がよく見えない。

そう言って、彼はいつものように笑った。


（彼女の記憶の欠片は現在「320」＋5＋ 1D5 = 3 ( 3 ) ）