喋る手帳『水音さん、水音さん。　お手紙が届いていますよ』

喋る手帳『では、私はまたお知らせがあるまで沈黙致します』

　――――　　　夜 風 の 名 の 下 に　　　　――――


いつもながら丁寧に折りたたまれた手紙を、封筒の中から取り出す。
薄水色の紙を広げると、整った文字が何行も綴られている。
「ああ、やっぱり差出人は思った通りの相手なのね」と少し苦笑いを浮かべてしまった。
今回はいつも以上に手紙を返していなかったから、きっといつもよりも私の事を心配する内容が長々と綴られているのだろう。
ここへ来る前の話になるけれど、あの地で共に居た時には、いつも沢山の言葉を交わし長い年月を過ごしていて、お互いの距離が近かったのもあって、こんなにも心配する事はなかったと思う。
だけど今、あいつは‥‥‥私が少しでも手紙の返信をしないとこうして手紙を送ってきては、私の事を心配しているようだ。
私がここへ来る前、別れ際のあいつは笑顔で私を送り出してくれたように思えたけれど、でも少し離れたところから振り返ってあいつを見たら、少し浮かない表情を浮かべていた事を覚えている。
‥‥‥でも、これはさすがに心配しすぎじゃないのかしらね。
いくら離れていたって、共に生きる事を誓った仲なのだから‥‥‥もう少し信用してくれたっていいと思うわ。
どんな優れた者が私の前に姿を現したって、私の中の一番はあいつなんだから私はあいつの元へ必ず帰るのに。

そんな事を思いながら一つため息をつき、改めて手紙に目を通してみる。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

手紙には、相も変わらず私の事を心配することばかり書かれていた。
ただ、最後の方にはいつもとは異なる内容が綴られていた。

α-pn-a-qt-a-pt-qo-k-qi-pz-u-pn-qa-n-qo-pk-o-qu-pa-n

これはあいつが手紙に仕込んだ魔法の言葉。
その言葉を唱えると‥‥‥何が起こるのかしら？

小さな声で魔法の言葉を唱えてみた。
‥‥‥けれど、特に何もおこらない。 まさか、ただの言葉‥‥‥？
いいえ、あいつに限ってそんな訳はないわ。
そんな事を思っていたら、突然小さな光が現れて何かを落としたかと思ったらその光はすぐに消えてしまった。
小さな光が落としたものを、しゃがんで手に取ってみる。

そう口にしながらも、私は思わず照れながら笑ってしまうほどに喜んでいたんだと思う。
あいつが送ってきたのは、私があいつと共に時を刻んで行くことを誓った時に交換したあいつと私のそれぞれの認識票タグを通したペンダントだった。
こんなの‥‥‥送ってこなくたって私はちゃんと、ここに持ってきているわよ。　まあ、常に身につけてはいないけども‥‥‥。
これじゃあ、あいつだけが持っていないことになるじゃないの‥‥‥。

‥‥‥心配性なあいつに、この水滴のチャームがついた『私』のペンダントを送ってあげよう。
そして私は、あいつが送ってきた月のチャームがついた『あいつ』のペンダントを持っていよう。
心配性なあいつの元へ帰るその日まで‥‥‥ね。




水音(797) は 【認識票ペンダント】水と月の絆　-月- を獲得！
水音(797) は 【認識票ペンダント】水と月の絆　-水- を失った！