『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.25.09:08、とある公園にて――


　電脳の世界のイメージなどあてにならない。彼女が
いい例だ。俺の嗜好に関わる部分は残念だと判断した。
電脳の世界のイメージのままが良かった。俺の基本的な
嗜好の設定によると、俺は子供に興味がないのである。
目の前の人間の女性は幼さの残る少女だった。

　今日はこの彼女とデートだ。この間、彼女に
助けられた礼である。悩んだ末にデートとなった。
　しかし、ただのデートではない。自ら正体を
明かそうとしない彼女から、如何に情報を引き出すか、
ゲームでもある。
　彼女自身が正体を明かしてくれるならば、
きゅいの複製のミニロボットをおまけで
つけるつもりだが、そう簡単に引き出せそうにない。
彼女の口は堅そうだ。


　俺の先を彼女が歩く。行き先は彼女に任せた。
デートなんてロボットの俺には経験がなく、
デートに関する情報について一通り調べたものの、
何処へ行けばよいのか判らなかったのだ。
彼女の好みも知らないのだ。判る筈がない。
　ややゆっくりと歩く彼女に歩を調整しながら、
横に並んでみた。デートというものは
横に並んで歩くものらしい。腕を組んで
歩くこともあるそうだ。
「……私、デートって初めてなんです」
　彼女が言った。
「男の人と接する機会はよくあるけれど、
こういうのは今日が初めてで……」
　お互い初めて同士だった。彼女自身が
提案したのだから、少なからず彼女には
経験があるものだと思い込んでいた。
「俺も経験はないよ。人間じゃないからね」
　俺は彼女の右腕に左腕を絡める。
「えっ？」
　彼女の頬が赤く染まった。どうしたのだろう。
何か間違っていたのだろうか。
「デートってこうするんだろう？　違うのか？」
　俺が腕を解くと、彼女は慌てたように首を振った。
彼女は俺の左腕を両手で持ち、身体を寄せた。
「間違ってないと……思います。多分……」
　小さな声で自信のない答えを返す。
「じゃあ、こうして行こうか。初めてだからな。
わくわくするよ」
　何故か恥ずかしがっている様子の彼女。
俺には理解出来ず、不安にさせまいと
笑みを返すしかなかった。





　少し離れて、クリスは二人の後を尾行していた。
土産物袋からはぽちが顔を覗かせている。
「……敵のボスかもしれない少女とデートだなんて、
呆れちゃう」
「今は断定出来ないが、怪しいな。
やれやれ、休暇を満喫出来そうにないな」