妾は、この世界に留まらねばならぬ。

元の世界に戻れば、忌々しい勇者の改変により、妾の存在がどうなるかわからぬ。

弱体化だけならばまだしも、存在ごと消されかねん。

しかし、しかしだ。岩のが寝ている間に実験を重ねたが、どうやら岩のから一定の距離以上離れようとすると、存在が希薄になる事を発見した。

奴の体内の虫とシェイドを食らい存在を確立したが、どちらもロックの体内にあった物。

長い時を眠っていた事もあり、あ奴と妾は、一種の同存在であるのだろう。

……それも、妾の方が立場の弱い。

流石にあ奴を殺す事を試すのは危険性が高い上に、魔族としての性質上、千日手は避けられぬ。

それに、一定の距離と言っても、山３つを越えた辺りでの事だった故、普通にしている分には問題とはならない。

あ奴が、こちらの世界に留まるのであれば、の話だが。

そしてあ奴は、この戦いが終われば故郷に帰ると今の所は決めている。

それは困る。妾の存在もそうだが、何より。


この世界ならば、成せるかもしれぬ。

あ奴の近くに居れば、妾は全盛の力を出せる。

記憶からの影による再現、それだけではただの木偶にすぎぬが……


『あの方』と同じ闇の性質を与えられた妾、その存在のほぼ全てと。

勇者の改変を受けておらぬこの世界の、妾達『魔』の元となる、死のエネルギーをかき集め。

妾の記憶の中から、『あの方』の影を作り出す。

それで、『あの方』の力の、片鱗でも行使出来れば。

生み出せる。『あの方』を


妾達、魔族を生み出した……



『魔王』を

この身を捧げよう、足りぬならば人を捧げよう。

それでも足りぬならば、この世界を捧げよう

魔女は動き出す。この世界を、魔王へと捧げる生贄にせんと。