■ 黒煙

「へえ、こんなところに通じているんですね」と言ったのは乾分のハチベ。
つい先日まで山にいたマニー親分の一行だったが、
ふとしたことで山を下ったところ、ひょんなところでお城の裏口を見つけた。

裏山から攻めたぶん正面から進むよりだいぶ近道になったようだ。
あっと言う間にお城の三階まで着いちまった。
チョット偵察、のつもりが結構深入りになっていった。

「どうします親分、このまま本丸まで行っちまいますかい」とハチベ。
「焦るなよ、あくまでこっちは様子見だぜ」とマニー親分。
「矢っ張り城の中はキナ臭えからな、慎重に行くぜ」と油断が無い。
しかし確かに、城の中の様子は随分と怪しげなものだった。
だいぶ進んでいる筈の他の一揆隊の連中の姿もこの辺りには無い。


「どうも怪訝しいな」と少し進んだところで親分が立ち止まる。
もう三階の廊下も端の方まで来たところだ。
「ちと暗すぎやしねえか」と辺りを見回す。
確かに、今までは天窓から日が差していて廊下の様子が明瞭とわかったが、
奥に進むに連れて段々と明かりが細くなり薄暗くなっている。

「窓が閉まっているんじゃないですかね」とハチベが上を見る。
だが、その視線はそもそもの窓がある辺りに辿り着かなかった。
「アレッ、何か霧のようなもので窓が見えませんよ」と驚いた。
「ようやく気付いたな、どうもおかしな煙が出ているらしい」


異変に気付いて足を止める一行。
本丸に近いだけあって、何か危険な罠が仕掛けてあるかもしれねえ。
かと言ってこのまま黙って引き下がる親分でもねえ。
「ここは矢張り、お前さんたちの力を借りるかな」と親分。
振り返った先にいたのは二体のえんぶりおだ。

「拙僧の出番ですかな」と言ったのは蛇のケンコウ。
その舌で空気を読む力は前にも話した通りだ。
「私も微力ながらお手伝いを」ともうひとりも蛇のえんぶりお、
新しく手下に加わった尼さんのジョアンだ。
このふたりの舌にかかれば遠くのものもお見通しだ。
早速ふたりして舌をちろちろとやり出した。

「おや、これは奇怪な」としばらくしてジョアンが何かに気付いた様子。
「親分殿、どうやらこの先には罠などない模様です」と話す。
「じゃあこの煙は何でえ？」と親分は首を傾げる。
「どうもただの煙のようじゃが、この先の広いところから出ておりますな」
「ええ、そこには人が三人ほどいるだけ。罠ではありません」
と、ふたりがそう言うのなら間違いは無さそうだ。

「ただ、少しおかしなところが」とジョアンは続ける。
「この煙、そのうちのひとりから出てここまで流れているようです」
「煙を出す人間けえ、こりゃまた新種の化け物かな」と親分は考える。
「だがまあ、罠じゃねえなら進んで正体を見極めてやるぜ」

こうして謎の黒い煙を辿っていく親分一行。
廊下の先の化け物とは一体何者なのか、それはもうすぐわかりそうだ。