目覚めると、枕元にメモが置いてあり、
寝室を出ると家中に、彼女と僕の写真が飾ってあった。
覚えはないけれど、僕らは結婚しているらしい。

名を呼ぶと彼女は嬉しそうに笑った。
自分の家なのに、見覚えのない物にあふれていて、彼女と過ごした年月がそこかしこに記録されているかのようだ。
推測するに、僕が自ら記録したのだろう。記憶補助装置として。

朝食を摂りながら彼女の様子を窺う。メモの通り、確かに体調が悪そうだ。

この情報は後で手帳に書き足そう。
メモによると、僕は彼女の不調の原因を探っているらしい。
記録による蓄積で、推理ゲームのように少しずつ、彼女のことが分かってきている。

例えば、彼女は決して僕の手帳を見ない。
何故なら彼女自身が秘密を抱えていて、詮索するのも、されるのも嫌っているから。
そしてその秘密を、暴いたり指摘してはならない。

例えば、彼女がこういう障害のある僕と結婚しようと思ったきっかけは、

という台詞だそうだ。
そしてどうやらそれは、彼女の秘密を見たときに僕が言った言葉らしい。

そして今の「ダイエット」という発言。
確かに彼女は大食いではない。しかし、食事制限と言うほど少なくもない。
一応、後で冷蔵庫を調べてみよう。

鏡の中の自分は、記憶の中の自分よりずっと歳を食っていた。
わざわざメモと一緒に鏡を置いた、昨日の僕は随分と賢い。
否応なしに現実を見せつけられた。

そして、
写真の中の彼女と、目の前の彼女。見比べてみても全く加齢を感じさせない。
僕の妻にしては彼女は随分と若い。ナチュラルメイクが上手だとしても、だ。

さて。
彼女には申し訳ないが、早速調査を開始しよう。
何しろ僕の時間は有限なのだから。