『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.25.08:10、とある施設にて――


　電脳の世界での出来事から一週間経った。

　特に異常はないそうだ。ワクチン、ウイルスを
何時入れられたのかが不明だが、少なくともウイルスは
ディバイダーが入れようとしたのだろう。

　彼女について報告するべきだろうが、現時点では
彼女が敵とは思えなかった。信頼出来る相手かどうか、
それすら判らないが、今は味方寄りとみていいだろう。

　適当な嘘の理由でマスターから外出の許可を得る。
マスターを騙すのは後ろめたいが、ぽちにだけは
デートと言いたくなかった。ぽちに話せば、
派手に冷やかしてくるに違いない。

　女性が好みそうなピンクのリボンと、花柄の
包装紙でラッピングされた小箱を隠して、そっと
部屋を抜け出した。





　窓からツルギの後ろ姿を見送る者が居た。
「甘い。私の目を欺こうったってそうはいかないよ」
　クルゥの中に宿る人物、ダークである。彼……
いや、本体である彼女はスレンダーラインの真っ赤な
パーティードレスを着ており、十分に目立つ
格好をしていた。
「……ところでダークよ。姉さんは何故にそのような
格好をしているんだ？　寒くないか？」
　ノースリーブでスカート丈は短いドレスだ。
　ダークはクルゥの義理の弟、クリスに目をやる。
「冷房が効きすぎているが、夏だから問題はない。
まぁ……いろいろとあってな。君の姉さんは
私に意識を託して眠っているよ。理由は聞くな」
　何かを察したようにクリスは目を背けて、頷いた。
「……で、俺にやって欲しい用件って何だ？」
　ダークはファイルを取り出し、クリスに投げた。
「舐められたものだよ」
　クリスはファイルを受け取り、頁を捲る。
「ミライが正体不明の女と接触した。害はないと
判断したのか、これからその女の本体に会いに
行くそうだ」
「正体不明の女？」
　クリスはファイルに目を落とす。
「ああ、そうだ。いつの間にかミライに抗体を植え付け、
ディバイダーのウイルスを消滅させたようだ。
未来を見るという力でね」
　ダークは腕に抱いていたぽちの頭を撫でる。
「私が直接行きたいのだが、私はここを離れられない。
旦那はミラージュに戻っているし、頼めるのは
君しかいないからね」
　ぽちがダークの手から飛んだ。クリスの周囲を
くるくると飛び回る。
「優しい方のお兄さん、お久しぶりだね」
「君にぽちと共にミライの監視を頼みたい」