―――。


ゆらゆらと揺れる尻尾の様な黒髪。
カラコロと一定のリズムを刻みつつ女は歩く。
その遠く先には樹々が茂る山が幾つか連なっている。

「しかしまぁ面倒な事になってんなぁ」
歩みはそのままに女はそうボヤく。
それに反応するかのように宙に炎が生まれ周囲を漂う。
「オマエに会えたのは僥倖だけど、どうすっかな」
ここまで辿り着く道中、昔滞在した事のある村の一画、
今では何もない更地だったがかつて師と共に鍛冶場とした場所。
そこで静かに眠っていた炎のエンブリオ。
周辺に師の姿は見えず、離れているという事は契約状態に無いというのは直ぐに理解出来た。
意思の疎通が可能で助かったな、と女は思う。
それからエンブリオは慌てたように女に事の報せを行った。

曰く、かつての主人が殺された。
曰く、その直前強制的に契約を破棄された。
曰く、共に居た他のエンブリオの所在がわからない。
曰く、新たに契約する事が出来ない。

契約が破棄された筈なのに、新たに契約が出来なくお手上げ状態だった様で、
他のエンブリオも同様なのかわからない、どうにか合流したく縁のある地で待っていたそうだ。
女は試しにと思い炎のエンブリオと契約しようとしたが手順を踏んでも繋がりは感じられなかった。

「しかしまぁ不思議な事もあるもんだな」
その話を聞いた時、師の死亡に関して少し驚いたが考えても仕方が無い事と思った。
斬り伏せられたとの事だが実際に死んだかは確認出来ていないとの事だし、そんな普通に死ぬ人とは思えないからだ。
これには多分に女の師への評価が高いだけかもしれない。
エンブリオとの契約を強制的に破棄したのは逃がす為に師がそうしたのかもしれない。
問題は再度契約ができなくなっている事だが、女にはそれに関する知識がなかった。

「まぁ兎も角先ずはあそこを目指そうや、その前に街もあるし」
もし生きていれば師である男もそこらへんで養生してるだろう、そう考えた。
死体で見つかったなら墓の一つでも立ててあったら墓参り、
墓も無ければ―――腰に下げた一振りの刀をそっと指で撫でる。
こいつでも墓標にしてやるか、弟子からの贈りもんだ。
―――そんな事を考えながら女は歩を進めていく。