調理場の奥にいた敵を倒し、エルたちは旅を続けていた。エンブリオの力も強くなり、それと比例してエルの魔法の力も強くなる。

　エルはいま、デビルのエンブリオを重点的に育てていた。長い間共にした仲間だ。彼女の力を強くすることが、そのままエルの呪いを除去する大きな力となった。思えば、悪霊によって引き起こされていた魔法の失敗も今ではほとんど無い。

「デビル、何か感じるか？」
「やっぱり近くにいる……ミズリィの気配がする」

　デビルは数日前から不思議なことを言っていた。突然現れ、突然いなくなった少女、ミズリィ。その彼女の痕跡を見つけたというのだ。いままでのデビルであったら分からなかっただろう。だが、力をつけてきた彼女にはいまそれが見える。

「任せてくれ。我は悪魔。鼻は効くんだ。クッキーに間違えて入った塩の存在だって分かる」
「それは昨日の僕の失敗のことを言っているのかい？」

　ミズリィのような影と、それを運んでいた妖精。妖精が運んだ先はどこか、それが分かる気がする。エルは旅を続け山岳地帯に足を運んでいた。岩肌がむき出しで、低木や苔がまばらに生えている。霧が立ち込め、視界は悪い。

「エル。近いぞ。ここから匂いがする……と言っても、魔法的な匂いだ」
「困った家出少女だ」

　エルとデビルは“それ”を見上げていた。岩肌から露出した……目の前の巨大な、銀色の立方体を。