(※今回の日記も本編とはあまり関係がありません
　 というか本編と関わりのある日記の方が少なくなりそうです。
　 とりあえず今回の日記で前回までの話の一区切りになる……
　 はずです。多分。)

帰りに関して、
ここで思ってもみない問題点がある事に気付いた。
流石に王子様を連れて蛇の渓谷を通過するのはいただけない。
他の場所はともかく、
あの場所だけは普通の人を連れて歩くにはむいて無さ過ぎるのだから。
「……というわけで、
　あそこを抜ける為に魔女の持ち物利用したいけど、
　使えそうなものはあるかしら。」
「まさかと思うのですが……」
「毒の無効化は私自身にしか意味はないし、
　見ただけでどれがどんな効果を持ってるかなんて分からないわよ。
　私が魔女を倒したのは種も仕掛けもあるけれど、
　別に魔法を使った訳じゃないもの。
　全く別の何かよ。
　それが何かはいわないけれど。」
ちなみに、敬語に関してはもう使ってはいない。
そもそも敬語を使い続けるつもりもなく、
王子様も普通でいいといってくれたのだから、
問題はないだろう。
「そうですか。」
しかし、
この王子様は面白い。
普通は少し気にする素振りを見せたりするのに、
私が言わないといったら、
それで素直に納得する事といい、
これまでのやり取りといい。
実に私好みの人である。
とはいっても、
恋愛感情ではなく、
友人感覚といった所ではあるが。
「あら、深く聞かないのね。」
「言いたければ勝手に話しそうだったので……
　ええと、この箒で空を行くのが楽そうですね。
　他はあまり……
　よく分からないものは城に戻って、
　魔術師達に鑑定してもらわないと分からないか……。
　私が見たところではそんな感じでしょうか。」
「……砕けた喋り方でいいのよ？
　じゃ、戻ったら鑑定のお願いもした方がいいわね。」
「そうしているつもりですが、
　……中々貴女みたいにすぐにという訳にはいきませんね。
　すみません。
　しかし、あの魔女を凌駕する力の持ち主なのに、
　中々不便な力なのですね。」
「……まぁ、それも個性かしら。
　別にいいわ。
　気にしなくても。
　不便というか、
　実の所別に凌駕して倒した訳じゃないわよ。
　あれはただの魔女の自爆。」
「え、そうなんですか？
　しかし、
　あの魔女の攻撃を全て受けたというのに無傷……
　全く傷ついてなかったような……
　力を凌駕してないとできない事だと思うのですが。」
「ああ、それは違うわよ？
　あの攻撃実の所全部効いてたから。
　効いてたというより、
　全部の攻撃が即死クラスだったわね。
　防ごうと思えば防げはするし、
　対処しようと思えば対処は出来るけど……
　防御すらしなかったから全部直撃したわよ？」
「……は？
　で、では一体――？」
「シンプルな話よ。
　不老不死の人間を何度だろうが、
　何十度だろうが、
　何百、何千、何万回であろうが、
　殺した所で死なないもの。
　その関係で呪いの類は効かないしね。
　実質、きちんと力を使ったのは、
　殺した時、それと……
　結界を破った時くらいじゃないかしら。
　正味の話、
　もっと魔女が冷静になってたら不味かったわね。
　種ばれしたら別の対処してきたかもしれないし、
　冷静にさせるつもりは毛頭ないとはいえ、ね。」
もう片方の私の能力については伏せたまま、
自分の不死性について明言する。
ただの不老不死だけならば、
自分の身に結構な危険が降りかかるものの、
得体の知れない力が他にあると知っていれば、
迂闊にこちらを害そうとはしないだろう。
そもそも、
それでも手を出そうとする相手との交渉等はお断りだし、
そういうタイプではないのは短い会話の中でも分かる。
ならば、
こちらの情報も少しは開示していたほうが、
いざという時力になってくれるかもしれない。
――最も、
色々理由をならべたてても、
最大の理由は反応が楽しいからの一点なのに変わりはないが。
「！
　それで……いえ、
　確かに理屈にはあってはいるか……
　しかし、いいのか、
　そんな事をばらしても……
　しかも、不老不死ともなれば、
　誰かに――」
「……研究しても何も出ないわよ。
　血や肉を食べたからそうなるって訳でもないしね。
　寧ろ人肉食べて気が狂うっていうパターンのがありえるんじゃない？
　魔力をもっている訳でもない、
　そして、
　人との相違は全くない。
　――こういうのはね。
　ただの呪いよ。
　だから、私に何をやっても不老不死には手が届かないわ。
　たとえ呪いを解析できたとして、
　あの魔女すらも上回る呪いをどうにかするなんて、
　現実的じゃないと思うけれど？」
「ああ、成る程……
　流石にそのレベルとなると、
　研究しようにも理解の糸口しかありませんし、
　どうにもなりませんね。
　成る程、分かりました。
　もし貴女について何か仕掛ける人間がいるようであれば、
　こちらで対応するようにいたしましょう。
　正直不利益しかありませんし、
　それだけではないのも分かりましたから。
　……あー、
　となるとマジックアイテムの使い方とかも……」
「知ってるものや理解したものは基本的に使えると思うわ。
　魔力が必要なものでもある程度ならなんとかなるしね。
　でも、折角だから帰りは王子様にエスコートしてもらおうかしら？
　レディをエスコートするのが紳士の役目でしょう？
　どうせ済む事が済んだらさっさと他の国にいくつもりだし、
　気にしないでいいわよ。
　お姫様に大切にしなくてはいけないものね、
　王子様？」
思ったよりも好条件が引き出せたので、
ついでとばかりにお願いする私。
そんな私の様子に、
苦笑を浮かべながらも、
「確かに、助けてられてばっかりでは男としても恥ずかしいか。
　――では、エスコートさせて頂きましょうか、
　救いの魔女よ。
　私が前に乗りますので、
　後ろに乗ってしっかりとつかまっていてくださいね？」
「――救いの魔女？」
「……聖女だのいわれるよりも、
　魔女と呼ばれる方が好きなのではないですか？」
「……流石は王子様、
　人を見る眼はあるのね。
　その通りよ。
　聖女なんてがらじゃないわ。
　別に私は善人ではないもの。
　まぁ、最も、
　それでも聖女と呼ばれるならそれはそれでいいと思うけどね。
　皮肉かがきいているのも面白いもの。」
「ははは、
　流石にそれはちょっと……
　皮肉が効き過ぎて難しい所だと思うよ。
　それに、実情を知った子供が泣く気がするしね。
　よし、捕まったね。
　それじゃ、行こうか。
　長話するにも城の方がくつろげるでしょうし。」
「ええ、後はお願いね。」
しっかりと箒の後ろに乗って王子様にしがみついて、
王子様に空の旅で快適に送ってもらう。
いい土産話になるとともに、
お姫様のからかい材料になるとも思ったが、
流石にこれでからかうと、
後々大変な事になりそうなので、
胸に秘める事にした。
実際上手くいくことを応援しているのも本当だし、
お姫様に関しては私は何もしらないので、
藪から蛇どころかドラゴンが出てきても面白くないのだから。
まぁ、
正直な話、
お姫様との話がこじれて、
私へとばっちりがきたり、
お姫様から嫉妬を貰うのは私としても簡便願いたいというだけではあるが。
ともあれ、
その辺りの事も考えてくれたらしく、
人気のない空路を選び、
人気のない場所に降り立ってくれたので、
そこから先は私が控えるようにして、
王城へと向かう。
流石に王子様と一緒で、
王子様が身元を保証してくれているし、
私の事もきちんと伝わっているようなので、
そこからの展開はとんとん拍子。
無事に謁見の間……
ではなく、暫く客室で待たされた後、
王様の私室へと通された。
「こういうのは普通謁見の間に通すものの気がするけど。」
「すまぬな。
　あくまでも内密にとなると、
　こうやって私室で行った方が色々融通が利くのだ。
　そもそも、
　祭り上げられたり、
　騒がれるのは嫌いだろうに。」
「ま、それはそうね。
　気を使っていただいたようで何より。
　それに、
　私はあまり気を使うタイプでもないしね、
　その方が穏便に事が済むわね。
　さて、と。
　大体の話は……
　もう王子様から聞いてるのよね。
　それで、お姫様は無事目が覚めたのかしら？」
「いや、それがまだ……
　魔女は確かに死んだのは分かっている。
　だから呪いが解けてもいいものだと思うのだが、
　何か分からないかね？」
「……王子様がキスをすればいいんじゃないかしら？
　それでもダメなら持ち帰った品を鑑定してもらえば、
　ひょっとしたら呪いを解くアイテムがあるかもしれないわよ？」
「その時はそちらさえよければ、
　こちらで金を出して引き取ればいいか。
　無理強いはしないから安心して欲しい。
　しかし……
　……キスでどうにかなるものなのかね？」
「魔女の呪いは愛には打ち勝てないっていうのはよく言う話じゃない。
　無理かもしれないけど、
　試してみる価値はあるわ。
　まぁ、夢を壊す言い方をするなら、
　どうせ傷つけてはならないと、
　丁重に丁寧に扱って外部からの刺激を与えていないのでしょう？
　寝ている子を起こすときにゆすったりするのと同じように、
　外から刺激を与えれば起きるんじゃないかしらって事。
　――ま、愛の力でってしておけば、
　後々問題が出ないからお勧めするわよ？
　まぁ、問題でても力づくで解決できるともいうけど、ね。
　ふふ。
　そういった手管に関してはそちらの方が存じているでしょう？」
「ふむ、なるほど、確かに、な。
　王子が目覚めさせたとなれば、
　きっちりと責を果たした事になり、
　二人が好きあっておるのであれば、
　この事がいい土台となって
　末永く幸せになれる、か。」
「まぁ、王子様を救ったのは私で、
　その話もどうせいつか知られることになるだろうし、
　私はこのまま用事が済んだら国外にいくけどいいわよね？
　私と王子様の関係を邪推されたら台無しだし。
　残念ながら、
　私と王子様では恋愛にはなりえないのよね。
　恋愛対象にするには私は純粋さが足りなさ過ぎるし、
　王子様は立派過ぎるもの」
「成る程成る程……
　無駄に波風立てる必要もない。
　それが一番良いだろう。
　気を使わせてすまぬな？」
「――報酬にその分色をつけてもらえるのでしょう？
　問題は一切ないわ。」
「……うむ。
　そういってもらえると実に助かる。
　流石にもう厄介事は簡便願いたい。
　流石に色々ありすぎたしな。」
全くと、一安心して笑う王様に、
クスリと笑顔を浮かべる。
この様子だと、
この国の今後も問題なく、
私としても心置きなくこの国を頼り、
今後の安全を確保できるというもの。
お互いにとって利があり、
私は約定を果たした。
そして、王様が手を差し出して、
私が手を握り握手する。
これで向こうも約定を護るということだろう。
そのまま幾許かの金銭を受け取り、
城下の宿を用意してもらい、
そちらに移る事にする。
後は連絡を待って、
用意が整ったら他の地へと発つだけ。
約定が果たされないのであれば、
私が暴れるだけだが、
２，３日中には、
私の元へと身分を証明する証と、
追加の金銭、
魔女の塔で私が持ち帰ったものが、
鑑定結果つきで返ってきた。
まぁ、半数以上がいらないものだったので、
捨て値でそのまま引き取ってもらう事にしたが。
かさ張るし。
そうして、私はこの国を後にする。
ちなみにお姫様は王子様のキスで無事目覚め、
幸せに暮らし始めたそうなので、
精々末永く幸せにしていればいいと思う。
私が頑張った分くらい幸せになってもらわないと、
私が頑張った意味もないわけだし。
この国の今後、
それと、
この国に私がまた関わる事になるのは、
随分後の事になる。

しかし、こうやって、
当時の事を思い出してみると、
本当によく綺麗に童話に纏まっていると思う。
実情なんて知ったら、
絶対夢をうち壊されてなくわよね。
――上手い事誤魔化して書いてもらって良かったわ。
それにしても、
あの世界での出来事は当然の如く、之にとどまらない。
――時間があれば、
他の出来事についても思い返してみてもいいかもしれない。
自分の過去の出来事が本に纏められ、
自分の手でその本を捲る。
自分の事だから、展開は大体覚えている。
でも、細かい所で覚えてなかったり、
自分の関わった出来事であるからこそ、
面白く懐かしい。
一冊一冊紐解いて、
一冊一冊過去を振り返る。
一冊一冊に想いが込められたこの本は、
他の誰も認めずとも、
少なくとも、私だけには大切な本。
願わくば、
本に込められた想いが一人でも多くの人へと届きますよう――

渡した香炉を指先で軽く小突き

横に居る凍結ドラゴンの死骸に視線を向け…

拘束された葛築から抜け出し、手近な死骸に入り込んだらしい。

どんどん発する声が弱々しくなっていく…。

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