『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.18.17:25、とある空間にて――


　非現実的な話だ。しかし、クルゥの話によると、
その『非現実的な力』を体験したことがあると聞いた。
現実に有り得ない話だ。証明出来ないものが、ある筈ない。
彼女は一時的なショックによる夢でも見ていたのだろうと、
俺はそう決めつけていた。


　パンドラは苦笑する。
「……胡散臭いですよね。私も信じてくださいとは言いません」
　気になる点はあるが、何にせよ助けられたのには違いない。
「ああ。胡散臭いな。何故、俺がウイルスに感染するのを知ったのか、
どうやって未然に防いだのか……俺には判らない。だが、
貴方が俺を助けてくれたことには素直に感謝する。有り難う。
マスターに迷惑をかけずに済んだよ」
　彼女は微笑み、本を両腕で抱きしめる。
「いえ。ただ、貴方を助けたかったから、行動しただけです。
それだけのことです」
「何かお礼が出来ればいいんだが……」
「いえ、お礼なんて要りません。見返りを求めて
助けたわけではないのです」
　彼女は慌てて首を振った。
「しかし、それでは……ああ。そうだ。数日遅れているが、
人間には『おちゅーげん』という贈り物をする文化があるそうだな。
お礼にその『おちゅーげん』とやらをさせてくれ」
「いえいえ。本当に……」
　彼女は首を振るばかりだったが、唐突に本を開いて、その
頁を破った。
「ど、どうしてもと仰るのなら……」
　彼女の白い頬が、薄い赤に染まった。破られた真っ白な紙に
何かの立体が浮かび上がり、紙は橙色の立体物へと姿を変えた。
ロボットを知るために作ってみたロボットの『きゅい』だった。
「この子……凄く気に入ってしまったんです。わ、私、趣味で
縫いぐるみを作っていまして……この子の縫いぐるみを作っても
良いですか？」
　彼女は一体何者で、俺を何処まで知っているんだ？
「……いいけどさ。そんなのでいいのか？」
　頬を真っ赤にして頷く。本当に女性かもしれない。
「ああ、そうだ。もし、現実で俺と会ってくれたら、
貴方の専用の『きゅい』を作ってもいい」
「私専用の？　ほ、本当ですか！？」
「ああ。実際に会ってくれるのならね。お望みのカラー、
仕様にも仕上げるよ」
　彼女の正体が気になった。今回は助けてもらったが、
正体の知れない以上、信用も油断も出来ない相手だ。
「会ってくれるならね」
　彼女について調査する必要がある。